猫は逃げた (2021):映画短評
猫は逃げた (2021)ライター2人の平均評価: 4.5
憎めなくて愛おしい“今泉監督版『猫が行方不明』”
『愛なのに』劇中にチラッと登場した、毎熊克哉と猫のカンタが主人公になる“今泉力哉版『猫が行方不明』”。『恋する惑星』に似たシチュエーションもありつつ、今泉監督のテイストに寄せたとしか考えられない城定秀夫による脚本の力もあり、だらしないオトナたちが繰り広げる恋愛模様は、どこか憎めなくて愛おしい。終盤に控えた長回しで魅せる修羅場シーンも含め、もはや安定と安心のブランド力といえるほどだ。瀬戸康史の使い方にもニヤリだが、明らかにちょっとおかしい主人公の部下をキュートに演じる手島実優が美味しすぎ。そんななか、『愛なのに』に比べ、濡れ場演出にエロさが足りないのは、ご愛敬といったところ。
優しい距離感で寄り添い合う先輩・後輩
好企画第2弾。化学反応の絶妙さでは『愛なのに』よりさらに上か? 谷崎の『猫と庄造と二人のおんな』や内田百閒の『ノラや』といった猫文学に着想を得た城定秀夫の脚本が素晴らしく、それを今泉力哉が独自の有機的な生成で丁寧に応えた(猫の演出も大変!)。結果、足がつった亜子(山本奈衣瑠)を広重(毎熊克哉)がマッサージするシーンなど、両個性のブレンドでしかあり得ない奇跡が幾つも発生した。
先輩・城定の脚本には後輩・今泉への愛と研究成果がよく見える。四人が部屋で一堂に会する今泉の世界から、城定的桃源郷へと接続されていく展開に悶絶。「笑い」に関してはオズワルド伊藤の飛び道具ぶりも凄いが、MVPは手島実優かも。