マイスモールランド (2022):映画短評
マイスモールランド (2022)ライター3人の平均評価: 4
多民族化していく日本社会の在り方を問う
祖国での民族迫害を逃れ、日本で育ったクルド人の少女。日本語で生活して日本の高校に通い、教師を夢見て大学進学を目指しているが、しかし父親の難民申請が却下されたことで在留資格を失ってしまう。いわゆる入管問題の理不尽を取り上げた作品だが、しかしそれはトピックのひとつに過ぎない。隣人である在日外国人の置かれた状況に無関心・無頓着な日本人。一方、クルド人コミュニティの中でも、民族の風習や伝統にこだわる親世代と日本人化した子供世代の間で価値観のズレがある。そうした多角的な視点を交えながら、少しづつ確実に多民族化していく現代日本にあって、我々はどのように共存すべきか、社会の在り方を見る者に問う。
小さき光
分福からまたも新たな才能が登場。在日クルド人の少女の物語という、日本の中の異国の物語。我々の生活と地続きの問題であるにもかかわらず、知らないことばかりで発見の多い映画でした。
そして何と言っても主演の嵐莉菜のバツグンの存在感。その出自を最大限に活かしながらも、フレッシュで瑞々しい演技を見せてくれます。これからも本当に楽しみで顔と名前をしっかりと覚えました。
奥平大兼も程よい温度感で相手役を好演、この二人の爽やかさがあるために映画が重くなり過ぎず、希望を感じさせてくれます。
嵐莉菜の今年の新人賞予告したい。多くの意味で今観るべき作品
何かと話題の「日本における難民」の実情を、丁寧な取材を反映させて誠実に映画にした印象。社会派寄りになりそうな題材を、主人公を高校生にしたことで切実な青春ストーリーとしてぐいぐい共感させるパワーがみなぎる。
主演の嵐莉菜の生々しい表情、説得力に満ちたセリフ回しに、将来の大器を予感させ、彼女の実の家族を共演させたアイデアもリアリティに貢献。奥平大兼も『MOTHR マザー』の名演技がたまたまではなく、真の実力派の片鱗をみせる。
ところどころ描写に物足りなさを感じる部分があるものの、終盤のシーンなど、そこを観るだけで激しく心を動かされる瞬間があり、「この現実を絶対に伝えたい」監督の強靭な意思に平伏す。