ドリームプラン (2021):映画短評
ドリームプラン (2021)ライター5人の平均評価: 3.4
W・スミスのチャームが支える暴走的(?)父性愛ドラマ
トップテニス選手ウィリアムズ姉妹の父親は、どんな人物か? そこにドラマの面白さを見出した本作。
娘たちのテニスの才能を信じ、独学でテニスを学んで指導に当たり、一流のコーチを探し出す。劣悪な環境下で娘たちを育てたくない、そんな動機に説得力が宿る。家族全員がそれを後押しするという設定も感動を盛り立てる要素だ。
一方で、安直な感動に走らないのも面白さ。社会性の欠如や、妻との対立などの主人公の不安定な部分はともすれば異常な父性愛に思えなくもない。女系一家での仲間はずれ感へのションボリも見え隠れ。そんな欠点をチャームに変えてしまうのはW・スミスの好演があってこそ。
天才はじっくり育てよ…と偶然にも現実の五輪の問題が重なったり
テニスのウィリアムズ姉妹を無謀な独自計画で特訓…という、天才を「作る側」の奇跡をじっくり体感。自分のやり方を曲げず、周囲のプロにも真っ向から反発する父親の姿は、『幸せのちから』の絶対にへこたれない主人公、演技開眼作『私に近い6人の他人』の弁舌巧みな青年など、非アクションスターのウィル・スミスのキャリアを集大成した印象。そして彼以上に、ウィリアムズ姉妹に“さりげなく”寄せた2人にも拍手を贈りたい。テニス場面のリアリティ度も大満足。
父親の「急がず待つ」こだわりの育成は、奇しくも北京五輪のドーピング問題を想起させつつ、映画全体のムードも重要シーンで静かに停滞したりするので、カタルシスは少ないかも。
ミスショットのリアリティ
ちょっとばかりテニスを趣味にしていることもあって、ウィリアムズ姉妹の物語の映画にはとても魅力を感じました。
ウィル・スミスのリチャード役もよかったですが、ビーナスとセリーナを演じたサナイヤ・シドニーとデミ・シングルトンの演技とプレイに感心しました。特に巧いショットではなくミスショットにリアリティを感じました。本気でプレイしたうえでのミスショットにちゃんと見えるというのは物語全体に重要な部分で、そこがおざなりになるといくら実話ベースと言っても一気に絵空事に見えてしまうものです。このミスショットのおかげで姉妹は超人ではなく才能に溢れた努力の人だということがちゃんと伝わります。
日本人好みの親ガチャ当たり映画
ウィル・スミス演じる主人公は、間違いなく毒親の分類に入るだろう。そこはかとない亀田史郎、宮里優感に加え、子どもを守りたい想いはローレンス・フィッシュバーンが『ボーイズ'ン・ザ・フッド』で演じた頑固オヤジの面影もあり、なかなか面倒臭い。そんななか、『ジョー・ベル~心の旅~』に続き、実話に基づく親子の物語を描いたレイナルド・マーカス・グリーン監督は、スミスの魅力でいい塩梅にキャラを調合し、ビヨンセ書下ろしのエンディングテーマでダメ押し。見方によっては“テニス版『ダンガル きっと、つよくなる』”という、日本人好みの親ガチャ当たり映画に仕上げている。とはいえ、144分はやはり長い。
努力の尊さと家族愛の美しさを語るポジティブな映画
世界のトップアスリートの話を、彼女らでなく父親を主人公にして語ったところが、面白いし賢い。そうすることで、裕福とはほど遠い黒人の姉妹がどうして普通なら不可能なことを達成できたのかが、より良くわかる。その裏には、とても強い家族の絆があった。これはスポーツ映画というより、家族の物語。ポジティブで明るい映画だが、黒人が直面する社会のリアルからも目を背けることもせず、そのバランスも絶妙だ。頑固者でワンマン、嫌われる要素もたっぷりある父親リチャードを、カリスマたっぷりに、愛を込めて演じるウィル・スミスのオスカー候補入りは、まず間違いないだろう。努力の尊さを語る、元気をくれる映画。