エル プラネタ (2021):映画短評
エル プラネタ (2021)ライター2人の平均評価: 4.5
現状維持バイアスは破滅を招く
深刻な経済不況で衰退するスペインの地方都市。空き店舗だらけの商店街に老人だらけの通行人。まともな仕事も収入もなく、2ヶ月後にはアパートまで退去させられる崖っぷちの母娘が、まるでそんな辛い現実から目を背けるかのようにセレブ気分で豪遊しまくる。地元政治家の愛人を騙って高級レストランや高級ブティックでツケ払い、まだ辛うじてカードが使えるのでネット通販やショッピングモールで爆買いし、全身をブランド物で固めて人通りの少ない街を闊歩する。どん底への転落は確実に迫っているというのに、強烈な現状維持バイアスから抜け出られず自滅していく母と娘。この恐ろしさと哀しさは、日本人にも他人事とは思えないだろう。
この惑星では虚栄もまた愛おしい
話題のアーティストにしてパフォーマー、アマリア・ウルマン(89年生)が監督他を務めた傑作。実の母親アレ・ウルマンとのW主演で、地元スペインの田舎町ヒホンを舞台にした虚実撹乱の術。モノクロームの映像も含めグレタ・ガーウィグ脚本・主演『フランシス・ハ』と比較しやすいが、「崖っぷち」の位相が全く異なる。本作の母娘が置かれるのは、高度消費の靄に隠れたヒリヒリした貧困である。
家賃を滞納しながら、ゴージャスな服装で街を歩く。セレブや王室が大好きな母の「凡庸さ」を批評的に見据えるが、目線はシニカルではない。現代社会の澱みや矛盾を引き受けながら、これほど「生きている」ことへの全的な肯定性を伝える映画は稀!