クレッシェンド 音楽の架け橋 (2019):映画短評
クレッシェンド 音楽の架け橋 (2019)ライター2人の平均評価: 3.5
悪意に満ちた世界で、その音楽はどう響く?
イスラエルとパレスチナの対立はニュース感覚では理解しているものの、肌感覚ではわかりづらい。それを当事者目線で浮き彫りにした点に、まず目を見張った。
テロの被害に遭った、親類を殺された……などなど、若者たちが語る体験は、かの地の現実を生々しく伝える。ひとりひとりの複雑な思いにフォーカスし、それぞれのドラマを紡ぐのが妙味。“平和”に賛同しない者がいるのも、また現実だ。
戦争に加え、悪意を克服できないSNS時代の善意の弱体化。そんな現代のリアルの中で、クライマックスに響く音楽の意味は大きい。希望は捨てない――作り手のそんな意志を感じさせる力作。
愛は人を強くし、憎しみは人を弱くする
指揮者ダニエル・バレンボイムのウェスト=イースタン・ディヴァン管弦楽団をモデルに、イスラエルとパレスチナの若者たちで編成されたオーケストラの対立と融和が描かれる。何十年にも渡ってお互いに殺し合いをしてきたイスラエル人とパレスチナ人。若い世代の音楽家たちも、相手に対する不信感や憎悪を拭えない。そんな彼らに、ホロコーストの記憶を背負って生きてきたマエストロが、憎しみがさらなる憎しみを生むことの不毛と愚かさを伝えていく。これこそ大人の立ち振る舞いである。愛は人間を強くし、憎しみは人間を弱くする。後半のメロドラマ的な展開は少々過剰に感じるが、分断の時代に大切なメッセージを訴える作品だ。
「ボレロ」がどう演奏されるか? その瞬間に思わず鳥肌…
パレスチナとイスラエルの紛争を描いた映画は数多いが、本作は「若者」「音楽」にフォーカスした点が新鮮。
まず若い世代が対立に向き合う感情がシビアでリアル。両陣営が相手側に対して嫌悪感、批判を浴びせる様子は異様なほどのテンションで、感覚的に理解不能な分、実際こうなのだろうと呆然とする。
その対立に、音楽がどう使われるか? 名曲がオーケストラで演奏されることで、シンプルに本能として高揚するうえに、映画をエモーショナルにさせる効果もテキメン。「ボレロ」は、そこで使われる重要な意味も。
安易で生ぬるい感動を用意しないのは好印象だが、重要ポイントとなる恋愛要素が、なんとなく作品全体とちぐはぐな感触は残る。