コーダ あいのうた (2021):映画短評
コーダ あいのうた (2021)ライター6人の平均評価: 4.3
オリジナル版で感動した人も必見!
聾唖者家族の中でただひとりの健聴者である女子高生ルビーは、幼い頃から両親や兄の通訳として家業を手伝ってきた。そんな彼女が学校で歌の才能を認められ、教師の薦めで名門音大への進学を希望するも、自分の助けを必要とする家族のため夢を諦めようとする。フランス映画『エール!』のリメイクだが、しかしアメリカの労働者階級を取り巻く生活環境や、その中に生きる身体障碍者の現実をしっかりと投影しつつ、自分の人生と家族への愛情との板挟みに悩む少女の揺れ動く心を鮮やかに描いた脚色は見事。同じ物語なのに全く違った印象を受ける。ラストで歌うジョニ・ミッチェルの『青春の光と影』がまた、本作のテーマを雄弁に語って感動的だ。
ハンデキャップは“かわいそう”ではない!
元ネタの『エール!』はよくできたヒューマンコメディだったが、それをより繊細に描き込み、よりデフォルメしたのが本作。
家族の絆を強調したドラマはもちろん、キャラのエキセントリックな部分も強調。セクシャルなアメリカンジョークを織り込みつつ、障がいを持つ者を“かわいそう”ではなく、生命力にあふれた人間として描いている点がいい。
コメディ色は強いが、それでもシリアスに受け止められるのは、生活感のある日常描写ゆえ。漁師の家の子であるヒロインは、自信なげな表情や服装を含めて魚臭さが伝わってくるほどリアル。役者は皆ハマっているが、やはり主演のエミリア・ジョーンズの好演が歌声ともども光る。
ヒロインの家族たちのユニークな個性が楽しい
聴覚に障がいがある人々を、障がいに悩む人々として描くのではなく、障がいを持たない人々と同じ、生活を楽しみ、生きることに四苦八苦する人間として描くところが魅力。ヒロインの父も母も兄も耳が聞こえないが、それぞれにたくましく、個性的で、人間として魅力的なのだ。しかも、この3人を演じるのは、実際に同じ障がいを持つ俳優たち。監督は「耳の聞こえない人の役があるのに、耳の聞こえない優秀な俳優を起用しないことは考えられなかった」と語っている。家族の中で唯一耳の聞こえる主人公は、歌を歌うことが大好きで、音楽学校への進学を願うようになる。そんな主人公に注がれる、家族たちの本音とあたたかな思いが胸を打つ。
ここまで無条件に泣いてしまう映画、1年に1本あるかないか
「こうなったら泣く」と物語の先を予想し、そのとおりになったら、ある程度冷静さを保てる。しかし本作は、予想どおりでも涙腺を崩壊させる魔力がある。
耳の聴こえない家族の中で、一人だけ聴こえる主人公の苦労と家族への愛情。その反駁する思いが切ない。主人公が溌剌としている分、なおのこと。そして歌うことに夢中になった彼女は、聴こえない家族にどうやって自分のパフォーマンスを伝えたか。そこだけは想定外の演出で、ほとんどの人が嗚咽するのでは? 最後20分は涙が渇く時間がないほど。音楽で本能レベルに刺激されるし、俳優の演技もとことん誠実。感触としては『リトル・ダンサー』『ニュー・シネマ・パラダイス』に近い。
可能性の扉を開くとき
『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を思い出させる、秘めたる”可能性の扉”が開く、その瞬間を描いた青春劇。
なかなかに繊細な気配りが必要になる設定ではありますが、それが足かせになることもなく、それでいてそのことを極端に前面にだすわけでもなくと、演じ手、創り手の絶妙なバランス感覚には素直に感心します。
主人公のエミリア・ジョーンズは、まだ、何者でもないけれど、何か秘めたものを持っているという難しいキャラクターを見事に演じ切りました。彼女を囲む家族や学校の人々もキャラが立っていて実に魅力的です。
そして何より音楽のチカラを感じさせる一本です。
サンダンスで4部門受賞したのも納得の感動作
4人家族で唯一耳が聞こえる主人公の女子高生は、普通と違う家庭環境に育ったことで、常に周囲から浮いてきた。そして今、家族を助けなければという義務感と自分の夢を追いかけたいという願いで板挟みになっている。そんな複雑な気持ちはあっても家族のことは愛していて、だから観る者は彼女を応援してしまうのだ。ほかの3人のキャラクターもしっかり考えられており、それぞれにストーリーがある。それが、この家族をさらに立体感あるリアルなものにする。ヘダー監督は、耳の聞こえない役者をキャストし、繊細な配慮をしつつ、生き生きと彼らの物語を語った。サンダンスで4部門受賞したのも納得の、温かい気持ちになれる感動作。