ADVERTISEMENT

林檎とポラロイド (2020):映画短評

林檎とポラロイド (2020)

2022年3月11日公開 90分

林檎とポラロイド
(C) 2020 Boo Productions and Lava Films

ライター2人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

静けさの中に切なさと優しさをたたえた不条理劇

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 原因不明の記憶喪失が蔓延する世界。身分証を持たないまま保護された男性は、家族による捜索願も出ていないことから行く当てがなく、病院の主催する自立支援プログラムに参加する。そんな彼の日常を淡々と映し出していくわけだが、その過程で「彼は本当に記憶を失ったのか」「むしろ忘れたい過去があるのではないか」との疑問が次々と沸きあがってくるところがポイント。ただし、ハッキリとした答えは提示されず、観客の想像に委ねられる。その不条理な設定は同じギリシャ出身のヨルゴス・ランティモスを彷彿とさせるが、しかし独特の哀切を湛えたクリストス・ニコウ監督の世界には穏やかな優しさが滲み出る。妙に愛おしくなる映画だ。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

記憶をなくすことは、悲しみを忘れられる喜びか……珠玉の一編

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

多くの人が突然、記憶をなくしてしまう。それが日常となった、ある意味、シュールな世界だが、静かに淡々と進むドラマのリズムに身を任せてしまう感覚。記憶を取り戻すのではなく、新たな人生に踏み出すという、主人公が取り組むプログラムは斬新ながら、アナログ的でユニーク。
中盤のある出会いによって、そのプログラムへの揺らぎが生じ、人間と記憶の関係を切なく訴える作品のテーマが一気に立ち現れる。その表現があまりに繊細で驚かされた。エッジの効いた設定が温かみを帯びる心地よさと、人間のやるせなさに耽溺。
冒頭に流れる「スカボロー・フェア」の歌詞は、結末を知った後に心に染み入り、そうした隠し味に監督のセンスを感じる。

この短評にはネタバレを含んでいます
ADVERTISEMENT

人気の記事

ADVERTISEMENT

話題の動画

ADVERTISEMENT

最新の映画短評

ADVERTISEMENT