夜明けの夫婦 (2021):映画短評
夜明けの夫婦 (2021)ライター2人の平均評価: 4.5
さりげなく「スターサンズらしさ」もハードに装填した傑作
面白い映画しか撮っていない山内ケンジ監督の長編4作目。このご時世に「裸」が山盛りである。「お父様、お母様」と一家の妻(鄭亜美)がのたまう小津的アッパーミドルのホームドラマに、ブニュエル的幻想が侵食。異形な令和の『東京物語』となる。
前作『テラスにて』は「100%与党に投票する」上級国民の風刺劇だが、今回は「筋金入りの左翼」なる言葉も飛び出すリベラル一家。だが仮面を剥がせば、ほぼ同じ。極端な少子高齢化とジェンダーギャップ指数116位が奇妙に重なる、表面的な正義や建前ばかり気にして本質的な議論にならない国の喜劇。その上で人間解放の可能性を夢見る。色んな意味で今最も政治的に攻めている日本製映画だ。
夫婦の子作り問題を巡るキモ面白い家族模様
無理強いするつもりはないと言いつつも孫を欲しがる姑と、旦那の浮気やセックスレスに悩んで子作りどころじゃない息子の嫁。この2人を軸としつつ、二世帯住宅に暮らす息子夫婦と親夫婦の日常をシュールなタッチで描く。孫欲しさのあまりノイローゼが暴走する姑、古風な日本の良妻像に過剰順応してしまう韓国人の嫁、いざ子作りとなるとプレッシャーでEDに陥るヘタレな息子、そして嫁にエロい妄想を抱いてしまう舅。一見したところ普通っぽくて、なんだか妙に生臭い人々の織り成すキモ面白い家族模様は山内ケンジ監督ならでは。そういう意味では『友だちのパパが好き』などと同じく好き嫌いは分かれるかもしれない。