ドライビング・バニー (2021):映画短評
ドライビング・バニー (2021)ライター3人の平均評価: 4
崖っぷちキャラをだんだん応援したくなる
わが子と暮らしたい崖っぷちキャラの暴走劇という意味では、“女性版『サンダーロード』”ともいえるが、お笑い要素は至って控えめ。「Justice of Bunny King」という原題からも分かるように、どちらかといえばケン・ローチ監督作に近い社会派ドラマだ。『ベイビーティース』でのヒロインの母や『ニトラム』でのパトロンと同一人物に見えない汚れ役のバニーを演じるエシー・デイヴィスだが、スーツ姿のギャップを挟み、だんだん応援したくなるキャラへ魅せていくあたりは、さすが名優。また、本作でも若手俳優の引き立て方が巧く、一緒に逃亡する姪役のトーマシン・マッケンジーとの掛け合いは見どころのひとつだ。
理不尽だらけの世の中で、正義と愛情を貫く女性の孤独な戦い
とある事情から子供たちを行政に取り上げられ、生活再建のため貯金をするべく、妹夫婦宅に居候する女性バニー。ところが、妹の再婚相手が年頃の姪っ子にセクハラをする現場を目撃した彼女は、相手を張り倒して姪っ子を救い出して一緒に逃走。誘拐犯として追われる身となる。自分と子供たちの将来を考えれば黙ってた方が得策だが、しかし見て見ぬ振りの出来なかったバニー。その理由が明らかになるにつれ、母親として女性として人間として、世の中の理不尽という理不尽を嫌というほど経験しながらも、怒りをもって己の正義と愛情を貫こうとする彼女の生き様が浮き彫りになっていく。これぞ弱者の意地と誇り。その反骨精神に魂が震える。
社会の底辺にいる女性のリアルな葛藤
シングルマザーのバニーは、わが子を自分で育てることを許されない。それを実現させるために仕事や住むところを確保したいとは思っているが、現実は厳しい。ソーシャルワーカーはもちろん子供たちを守ろうとしているのだけれども、バニーの視点から語られる今作は、観る者にも葛藤を感じさせる。5歳の娘の誕生日をなんとしても一緒に祝いたいと願うバニー。そしてクライマックスとラストは、とても切ない気持ちにさせるのだ。今作で監督デビューを果たしたゲイソン・サヴァットは、針金が飛び出たブラを我慢してつけ続ける様子などディテールに注意を払い、リアリズムを追求する。彼女の次回作が今から楽しみ。