アテナ (2022):映画短評
アテナ (2022)ライター2人の平均評価: 4
ヘヴィな社会派ながらエンタメ要素が凝縮
冒頭11分のアバンタイトルからも分かるように、ほぼ同様の設定&テーマである『レ・ミゼラブル』に欠落していたエンタメ要素が凝縮された一作。ギリシア神話のような兄弟の対立は香港や韓国ノワールを思い起こさせるほか、迷路のような団地を舞台にした『ザ・レイド』な緊迫感、まるでゾンビのような集団心理の怖さなど、社会派コスタ・ガブラスの遺伝子を持つロマン・ガブラス監督が、若い世代に向けて見事にアップデート。前半の展開が凄まじいだけに、後半にかけての失速感は否めないが、監督とともにカリスマ性を秘めたカリム役の新人サミ・スリマンがハリウッドから声がかかるのは時間の問題だろう。
リアルな状況に置かれた兄弟の悲劇
現代社会が抱える怒りと不安を文字通り爆発させる、タイムリーなスリラー。2年前にアメリカで起きたBlack Lives Matterを再び目の前で見ているような気持ちになった。冒頭からいきなりアクションに持ち込み、ノンストップで突き進むこの映画が語るのは、人種差別と、警察による暴力。だが、その根深い問題にどう立ち向かうのか、兄弟の中でも考えに違いがあり、そこからギリシャ神話のような悲劇が生まれていく。彼らを演じる役者たちの演技は非常にパワフル。脚本家のひとりラジ・リは2019年の傑作映画「レ・ミゼラブル」の監督、脚本を務めた人。この2作品には確実につながるテーマがある。