1秒先の彼 (2023):映画短評
1秒先の彼 (2023)ライター5人の平均評価: 3.8
京都への移植はまず成功かと。
台湾のチェン・ユーシュン(陳玉勳)監督による『1秒先の彼女』が大好きな監督・山下&脚本・宮藤、初のタッグ。岡田将生の京都弁はちょっと怪しいところもあるが(笑)、二枚目なのにモテない君キャラをハイテンションでぶっ飛ばす。片や清原果耶はこれ以上の適役はいないのではないか。関西弁はネイティヴだから違和感ないし、おどおどした恋の心情に溢れていて今作も素晴らしい。これだけで男女を逆転させた意味がある、ってもの。アレンジにも定評のあるクドカン、妙なところで変更や新しいアイディアを加え、オリジナルにはないキャラ (たとえばバス運転手の荒川良々)など、終盤でしっかり活かしてみせてオリジナル越えか。
脚色の上手さが際立つ秀逸な邦画リメイク
日本でも話題になった台湾映画『1秒先の彼女』の邦画リメイク。他人よりも1秒早い方が男子、反対に1秒遅い方を女子にしたのは大正解と言えよう。それは、「消えた1日」の主導権を握るのが男性から女性へ変わることで、オリジナル版で指摘されたストーカー的な危うさが解消されたこともあるが、なによりもキャスティングの妙である。見ていてイラっとするくらいセッカチな主人公の岡田将生、じれったいほどノンビリとしたヒロインの清原果耶と、どちらも素晴らしくハマリ役。舞台となる京都の地域性を存分に活かし、なおかつ登場人物の追加や設定変更によって、人生の悲哀まで表現した宮藤官九郎の脚色もなかなか上手い。
オリジナルからの“男女逆転”設定は正解!
『謝罪の王様』にしろ、「ゆとりですがなにか」にしろ、クドカン作品における残念なイケメンを演じる岡田将生は間違いなく面白い。意外とオリジナルに忠実な今回のリメイクでも、しっかり笑わせてくれる。独特なリズムと京都の風景がここまで合うとは思わなかったが、「ヨーロッパ企画」のSFに近いと捉えれば納得。“男女逆転”に設定変更しながらも、“ワンテンポ遅い”清原果耶パートも不自然さはなく、オリジナルの後半パートで感じられたモヤモヤ感も払拭。遺作となった笑福亭笑瓶のDJに、言われても気づかないギャルな片山友希、岡田の幼少期を演じる『怪物』の柊木陽太など、キャストのサプライズ感も楽しめる。
主演二人の魅力をフル活用
岡田将生と清原果耶という主演二人の持つ魅力やキャラクター性をそのまま映画に焼き付けたような感がある一本。オリジナルの台湾映画も秀作でしたが、男女を入れ替えたことで想像以上に面白いリメイクになりました。京都を舞台に選んだというのもいいアイデアでしたね。どこか浮世離れした空気が漂う京都の街並みが映画の風変わりさを高めていて、この映画に欠かせないファンタジーさを倍増させています。山下敦弘監督と脚本の宮藤官九郎は今回が初めての競作となりましたが、相性は良いように思います。これからも見たい組み合わせです。
岡田将生のコメディセンス、清原果邪の安定冷静の化学反応の味
オリジナルの台湾映画に全体的流れは忠実(ゆえにクドカンらしさもわりと控え目)も、男女を逆転させたことで、前半/後半の味わいはかなり違うかも。前半パートの中心を岡田将生が担うことで、彼らしい独特のとぼけた味わいが生かされるうえ、何が起きているのかわからない展開に軽やかさが加わる。観やすくて楽しい。
その分、後半は清原果邪が、これも得意の落ち着いた冷静さで対応した印象。さまざまなパーツがつながる種明かしも、穏やかで、ややエモい空気が上回り、前半とのギャップをどう楽しめるかは観る人次第かも。
視点が変わるドラマを“精神的”に追求した『怪物』に対し、こちらは“物理的”なので両作を比べるのもオススメ。