山女 (2022):映画短評
山女 (2022)ライター3人の平均評価: 3.3
200年以上前の日本に映し出される未来への警鐘
女性がまだ家や地域社会の従属物だった江戸時代中期。天明の大飢饉に見舞われた東北の農村で、村八分にされた水飲百姓の娘が家族を救うため村を去り、禁じられた山の奥地へと足を踏み入れる。要するに、自分を縛り付ける家や地域社会を棄てることで、ようやく初めて人間らしい自由を手に入れた女性の物語だ。同調圧力に年功序列、家父長制に男尊女卑。浮き彫りになるのは、今なお日本社会に根強い習慣ばかりだ。さらに、深刻な貧困の中で農民たちは自分より立場の弱い者を虐めて留飲を下げ、不合理な宗教にすがって理性を失っていく。200年以上前を舞台としながら、日本がこれから向かわんとする先に警鐘を鳴らす作品だ。
山田杏奈の眼力に、森山未來の「山男」っぷり
『アイヌモシリ』ではドキュメンタリータッチでアイヌ民族を描いた福永壮志監督が、「遠野物語」から着想を得たオリジナル寓話。「らんまん」の長田育恵も脚本で参加した18世紀の東北が舞台だが、今回も撮影や音楽などに海外のスタッフが参加していることもあり、どこかエキゾチックな雰囲気漂う。そのぶん村社会特有の閉塞感がモノ足りない感もあるが、『シン仮面ライダー』以上の身体表現を魅せる森山未來の堂々たる「山男」っぷりに圧倒。そして、役名通り、どんな状況に追い込まれようとも、“凛”としたヒロインを演じる山田杏奈の眼力が引っ張っていく。暗闇のシーンが多いため、完全にスクリーン&劇場向き。
山々と空だけの大きな風景に目を奪われる
物語の節々でスクリーン全体に広がる、山々と空だけの広々とした風景が、いつもいい。舞台は18世紀後半の東北。その大きな光景を見るだけで、その頃、そこにこういう山々があり、そこには逃げて来たものを受け入れる森があったのに違いないと思わせる。そういう光景の中で描かれるのは、「遠野物語」に着想を得たというある娘の話。どこにでもある貧しい人々の日々の暮らしが、ふと、何か魔術的な力と接点を持つ。
撮影は、ロサンゼルスを拠点に活動しTV「TOKYO VICE」の撮影にも参加したダニエル・サティノフ。カメラが、かつてここにあったであろう山々、今もどこかにあって欲しい山々の姿を静かに丹念に描き出す。