野獣の血 (2022):映画短評
野獣の血 (2022)ライター2人の平均評価: 3.5
時代の変化に翻弄されるヤクザを描いた骨太な韓流ノワール
民主化後の韓国で文民政権が誕生した’93年の釜山を舞台に、地元の貧しい庶民の生活に寄り添う昔気質のヤクザが、小さな漁港の利権をめぐる新旧暴力団同士の、血で血を洗う激しい抗争に巻き込まれていく。いわば、時代の急速な変化に翻弄される韓国人の戸惑いを、裏社会の視点から描いた韓流ノワールだ。弱肉強食の資本主義型ヤクザの猛攻を前に、もはや義理人情など通用しなくなったことを思い知らされた主人公が、気のいい兄ちゃんから冷酷非情なボスへと変わらざるを得なくなる。ストーリー自体に目新しさはないものの、敵側についた幼馴染みとの複雑な友情など、厚みのある人間ドラマのおかげで見応えのある作品に仕上がっている。
かっこよく死ぬか、クズとして生き延びるか!?
ヤクザの世界でスジを通して生きてきた男が、抗争のなかでスジを否応なしに曲げられる。『仁義なき戦い』にも通じる、その果ての凄惨を活写。
信用できるのは親分か、兄貴分か、親友か?謀略が渦巻く世界では正しい道筋が見えるはずもなく、そこにスリルが生じ、悲痛さをまとっていく。“かっこいいヤツよりもクズの方が生き残る”というセリフが重い。
スローモーションの映像や音楽に頼っていた前半のエモさは、後半に向かうほどリアルかつソリッドに研ぎ澄まされていく。この見せ方は巧い。日本ではなかなか見られなくなった硬派な極道ドラマが韓国から飛び出した。