逆転のトライアングル (2022):映画短評
逆転のトライアングル (2022)ライター5人の平均評価: 4
誰も、やさしくなんかない!
主従逆転のドラマを描くなら、うってつけの舞台は無人島。その逆転の過程を、イヤらしいまでの人間のマウンティング欲とともに描き切るオストルンド監督の手腕に唸る。
モデルカップルの口論を見据えた第一章からして不穏な雰囲気。第二章では豪華クルーズ船内で大富豪やセレブらとクルーの対比を冷徹に見据え、3幕目では逆転劇へ。痛烈なブラックユーモアと風刺が最後までついてまわる。
それにしても、この映画には“やさしさ”を持ち合わせた人が出てこない。人間には対等な関係などありえないと言われれば、それも社会の現実なのだろうと納得。ロバート・アルトマンが描くクルエル・ワールドの戯画にも似た味わい。毒気キツめ。
映画史に残りそうな衝撃シーン。若くして逝った主演女優の輝き
モデル業界のオーディション舞台裏や男女格差などを超皮肉っぽく描く冒頭から、監督のセンスが全開。やがて能天気な富裕層と、彼らに仕える側の立場の逆転劇へと発展していくが、今回はテーマ性よりもエンタメとしての面白さが上回り、誰もが痛快に見やすい作りかと。蘊蓄的部分も良きアクセントに。
人間の生理現象をネタにした激震シーンは、日本人の感覚ではそれほどではないかも…だが、欧米の人にとって屈辱的とも描かれ、かなりのスリリング度。単純に絵的に凄まじい。
インフルエンサーのモデル役、C・ディーンが本作直後、32歳で急逝した事実を重ねると、サバイバル劇がより動揺を誘い、映画と現実のリンクを感じずにはいられない。
立場だけじゃなく、ジェンダー観も逆転する「流されて3」
ルッキズム重視のファッション業界を皮肉った導入部から、主人公のモデルカップルが乗り込んだのは、有色人種の裏方スタッフに対し、ロシアの財閥や英国の武器商人などがセレブやりたい放題の豪華客船。分かりやすくヒエラルキー社会を見せつけた後、嵐と海賊の介入による地獄絵図を経て「第三幕」に突入する。ブラックユーモアを交えたセレブと使用人の逆転劇は、ガイ・リッチー監督もリメイクした『流されて…』と同じだが、世間を反映してしっかり男女逆転になっているのがミソ。ウディ・ハレルソンの使い方やブレイク間違いなしのフィリピン人俳優、ドリー・デ・レオンの怪演もあり、147分の長尺も気にならない。
まさにオストルンド監督の勝負作
H&Mとバレンシアガを交互にイジリたおす冒頭から飛ばしている。人気沸騰のR・オストルンド監督、初の英語作品。『フレンチアルプスで起きたこと』では男性優位や家父長制など、『ザ・スクエア』では現代アート界並びにお題目としての多様性を転覆させた彼が、今回はファッション業界を入口に両者を融合させた風刺喜劇を展開。判りやすい設計だ。
アル中でマルキシスト(!)の船長(W・ハレルソン)も乗っている豪華客船クルーズから、リアリティショー的な無人島へ。当然『蝿の王』的なヒエラルキーの反乱が起きるが、大枠は資本主義の腐敗を戯画化する『甘い生活』や『皆殺しの天使』の末裔であり、『ザ・メニュー』等と共振する世界。
上っ面だけの金持ちを笑う痛快なブラックコメディ
最近の「ザ・メニュー」やHBOのドラマ「ホワイト・ロータス/諸事情だらけのリゾートホテル」にも重なる、上っ面だけの金持ちを笑う痛快なブラックコメディ。格差を扱うという意味では「パラサイト 半地下の家族」にも通じるところがあるかも。最初のチャプターで展開する、男性モデルとインフルエンサーのチャラいカップルが言い争いをするシーンから、ぐいっと引き込まれた。彼らをはじめ、今作に出てくるキャラクターや展開される会話は、誇張されている中にもリアリティ、真実があるのだ。いかにもオストルンドらしい作品だが、これまでの彼の作品より入っていきやすさがあると言える。なかなかの傑作。