パリタクシー (2022):映画短評
パリタクシー (2022)ライター3人の平均評価: 4.3
これぞまさしく「人に歴史あり」
仕事は低賃金で長時間労働、妻子を抱えて心も体も疲れ切ったパリのタクシー運転手が、身なりの良い上品な老婦人を乗せたところ、寄り道の連続で振り回される。世間知らずな有閑マダムの気まぐれかと思いきや、しかし彼女の口から語られるのは想像を絶するほどの過酷な半生。これは人生の終末期を迎えた老女の、いわば想い出の地を巡る旅だったのだ。いつの時代も社会には理不尽がまかり通り、それぞれの世代にそれぞれの苦労がある。昨今、日本では高齢者を悪者にして世代間の分断を煽る傾向が見られるが、しかし我々は幾多の困難を乗り越えてきた高齢者の人生に学び、より良い社会を目指すべきではないか。そう考えさせられる作品だ。
パリの観光名所を巡りながら、人生を振り返る人情喜劇
92歳のマダムと運転手の出会いから始まる一期一会の物語だけに、パッと見『ドライビング Miss デイジー』。エッフェル塔、シャンゼリゼ大通り、凱旋門といった観光名所を巡るロードムービー要素もあるなか、2人の掛け合いが笑いを誘いつつ、マダムの波乱な半生が明らかになる回想パートが挿入。「激動の時代に翻弄されながら、彼女はいかに生き抜いてきたか?」という大河ドラマな味わいと現代に繋がるメッセージに胸を打たれるなか、まさかのサプライズからの終着点がジワる。クリスチャン・カリオン監督の職人技も光るフランス映画ならではの人情喜劇であり、これだけ盛り込んで91分という、なかなかの拾いモノ!
優しさが人を幸せにする…当たり前のことに泣ける
映画を観て心がほんのり温かくなり、幸せな気分に浸りたい。そんな人に最適な一作。
見たところ元気な92歳の女性と、彼女をある場所へ送り届けるタクシー運転手。パリの観光ムービーのように名所を巡るので観てるだけで心ときめくが、立ち寄る先々と、92歳の人生のシンクロがいちいち美しい。
たまたま会った2人が最初はぎこちなさを漂わせ、徐々に打ち解けて相手を本気で思いやる…というドラマは過去に何度も目にしてきた。的確なエピソードで誠実に描けば何度でも感動することを本作は教えてくれる。
「つまらん人生」と諦めていた運転手が短い時間を楽しみ、心に希望の光が射すプロセスに自身の日常を重ねてしまう人、多いのでは?