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大いなる自由 (2021):映画短評

大いなる自由 (2021)

2023年7月7日公開 116分

大いなる自由
(C) 2021FreibeuterFilm・Rohfilm Productions

ライター4人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 3.8

なかざわひでゆき

ナチス崩壊後も弾圧され続けたドイツの同性愛者たち

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

 ナチスがユダヤ人と同様に同性愛者を迫害したことは有名だが、しかし戦後のドイツでも依然として男性の同性愛行為が違法だったため、ナチスの強制収容所から解放されたはずの同性愛者たちが、そのまま刑務所送りになっていた…というのは知らなかった。本作の主人公ハンスもそうした同性愛者のひとり。ここでは’60年代末に法改正されるまでの間、何度も繰り返し投獄されながらも「ありのままの自分」を貫いた彼の不屈の精神を軸としつつ、当初は同性愛者を嫌悪していた殺人犯との、愛情とも友情ともつかない奇妙な絆が綴られていく。愛と自由をヒューマニズムの根幹として捉えた作品。バックラッシュの吹き荒れる今だからこそ胸に刻みたい。

この短評にはネタバレを含んでいます
猿渡 由紀

残酷な状況でも失われない人間の愛と優しさに感動

猿渡 由紀 評価: ★★★★★ ★★★★★

オープニングは、公衆トイレの隠しカメラで捉えられたゲイの男性たちの録画映像。そこに映っていた男たちは、犯罪人として刑務所に入れられるのだ。なんと非人間的で不条理なことか。自分のアイデンティティを守る主人公ハンスは、もはや刑務所の常連。仲間からも強いと尊敬される彼だが、半世紀近くもの時間をそこで過ごしたら、どうなるのだろう。3つの時代をスムーズかつ効果的に移動しつつ、マイゼ監督は、メロドラマにすることなく、静かに、丁寧に、登場人物たちの変化を描いていく。残酷な状況の中でも失われない人間の優しさ、思いやり、愛に感動。とても意外で、違った解釈ができるラストシーンは、多くのことを考えさせる。

この短評にはネタバレを含んでいます
平沢 薫

どんな状況でも、愛する気持ちは、生まれ、育つ

平沢 薫 評価: ★★★★★ ★★★★★

 タイトルは、1968年にドイツで成人の同性愛が違法ではなくなった時にできたバーの名前で、本作では逆説的な意味を持つ。
 人間と人間の深い結びつきは、性的指向とは関係なく生じることがある。そんな当たり前のことを、一人の男が刑務所で過ごす3つの時期、1945年、1957年、1968年に焦点を当て、20年を超える長い年月を通して静かに描き出す。刑務所の2人部屋でたまたま同室になった2人、当時は違法の同性愛のため投獄された男と、異性愛者の男が、人間の基本的な部分で接点を持つ。彼らの刑務所での日々は決して楽なものではないが、どんな状況下でも、人を愛する気持ちは、生まれ、育つ。そんな思いが浮かんでくる。

この短評にはネタバレを含んでいます
斉藤 博昭

素直に生きることが罪となる。ラストの余韻は、ことのほか長い

斉藤 博昭 評価: ★★★★★ ★★★★★

第二次大戦後、1957年、1968年と、3つの時代で刑務所に入る主人公。理由は彼が「ゲイ」だから、そしてその本能に従ったからで、つまり人生そのものが罰せられるというテーマが揺るぎなく全編に貫かれ、いま観るべき作品に結実した。
刑務所内で主人公がどのように愛を表現したか。そのエピソードの数々で驚きと切実さの両方がもたらされ、呆然としてしまう。しかし時代は変わる。そして変わりゆく時代に対応できないのも人間であると、この映画は強烈に訴えかける。その意味で観終わった後の悲しみはより深い。
ダンサー・振付師である主演のフランツ・ロゴフスキが肉体全体でアピールする怒り、無力感、かすかな希望と喜びは芸術的。

この短評にはネタバレを含んでいます
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