マネーボーイズ (2021):映画短評
マネーボーイズ (2021)ライター2人の平均評価: 3.5
自分らしく生きるために体を売る若者たち
舞台は中国の地方都市。田舎の貧しい実家を支えるため、違法な「売り専」で生計を立てるゲイの若者フェイと、似たような境遇の仲間たち。自由で享楽的な都会での生活も束の間、彼らの前には厳しい現実が次々と立ちはだかる。中国社会で根強い家父長制的な家族主義や同性愛者への偏見。さらにそこへ、都市部と田舎の経済格差や教育格差も加わり、自分らしく生きるというささやかな願いを叶えることすら困難な若者たちは、やがて家族や社会の無言の圧力に屈せざるを得なくなる。日本でも親のため世間体のためと、自分を偽って生きるゲイは少なくない。そんな当事者たちの痛みや哀しみを、静かに抉り出すような映画だ。
ハネケ監督に師事した逸材が長編デビュー
舞台は中国の架空の街ながら、オール台湾ロケ。なのに、大陸の空気感がしっかり伝わってくるものの、常に曖昧な作品のトーンとしては、どこか台湾ニューウェーブに近い。薬物事件を経て、役者として一皮剥けたクー・チェンドンが流浪の男娼を演じる一方、彼が波乱な5年余りの中で出会う3人の女性を『三人の夫』のクロエ・マーヤンがミステリアスに演じ分けているのも興味深い。ミヒャエル・ハネケ監督に師事したC.B. Yi監督だけに、主人公が保守的な地元に里帰りし、身内から責められるシーンに至っては、胸が締め付ける思いになること請け合いだが、次回作がSFという自由さゆえに、ロウ・イエ監督のような逸材になるかもしれない。