キル・ボクスン (2023):映画短評
キル・ボクスン (2023)ライター2人の平均評価: 4
悩めるシングルマザーの皆殺しノワール
「育児より殺人のほうが単純」。こう言ってのける凄腕の殺し屋、キル・ボクスンは思春期の娘を持つシングルマザー。子どもに仕事を秘密にしつつ、血で血を洗う抗争に身を投じる。母と娘の話が本筋だが、殺人を「作品」と呼ぶ殺人シンジケートの設定が面白い。アクションも一つ一つが粒立っていて、組み立てと見せ方の工夫が抜群。ライトな雰囲気に逃げず、ノワールを貫くのも韓国アクションらしい。名優チョン・ドヨンとソル・ギョングが良いのはもちろんのこと、『D.P. -脱走兵追跡官-』のク・ギョファンがここでも好演。注文をつけるとしたら、セリフの多い日本人役にはネイティブの日本人俳優を使ってほしいことぐらいか。
凄腕殺し屋のシンママが体現する「大人のあるべき振る舞い」
自分が親に虐待されて育ったため、我が子には辛い思いをさせまいと努めるも、しかし愛娘が思春期の複雑な年齢にさしかかり、家庭と仕事の両立に悩むシングルマザー。そのうえ、彼女は娘に知られてはならない秘密を抱えている。実は彼女、裏社会でもナンバーワンの凄腕殺し屋なのだ。世の中に完璧な大人など滅多にいない。それでも、未熟な子供を守り育て導くのは大人の責任。そんな「大人のあるべき振る舞い」を、本作では弱肉強食の冷酷非情な殺し屋の世界を舞台に描き、ハードなバイオレンス・アクションへと昇華させている。クールな殺し屋と迷える肝っ玉母さんの顔を併せ持つキル・ボクスン役のチョン・ドヨンがとにかく魅力的だ。