マエストロ:その音楽と愛と (2023):映画短評
マエストロ:その音楽と愛と (2023)ライター3人の平均評価: 4
『アリー/スター誕生』はビギナーズラックではなかった!
痺れるファーストカットから絶妙なラストカットまで、デビュー作『アリー/スター誕生』が決してビギナーズラックではなかったことを実証するブラッドリー・クーパー監督作。『ウエスト・サイド・ストーリー』を手掛けたスピルバーグがスコセッシとともにプロデューサーとして参加しているのも興味深く、大胆かつ繊細な演出は、さすがイーストウッドの後釜候補だ。カズ・ヒロによる特殊メイクをも超える、クーパーの鬼気迫るなりきりバーンスタインっぷりもスゴいが、『ナポレオン』同様、“革命家”の愛の物語であることには間違いなく、妻役のキャリー・マリガンにしっかり花を持たせている。
ブラッドリー・クーパーの野心、情熱、やる気に圧巻
全編を通じてクーパーの並々ならぬ意欲が伝わってくる。監督デビュー作「アリー/スター誕生」でも音楽の才能を見せたが、世界的巨匠になりきるのは別のレベルだ。声をマスターするための特訓も「アリー〜」公開前から始めたとのこと。大聖堂での指揮の部分は特に圧巻。人生の違った段階を見せていく上では、特殊メイクアーティストのカズ・ヒロがまたもや素晴らしい仕事ぶりで貢献。モノクロとカラーを使い分け、空想の要素も入れるなど普通の伝記映画と違う作りしたのは、「あなたは作曲家?指揮者?」と聞かれた人物を語るのに適している。だが、その並外れた人生の要素を欲張って盛り込んだせいで肝心の焦点が薄まり、散漫になった感も。
複雑を極める夫婦愛で、最高の「演技」を目撃できるのは確か
“監督”B・クーパーは、モノクロとカラーの使い分け、時代の再現、大胆なシーンの切り替えなどで、またもカッコいい演出術を炸裂。俳優としてはカズ・ヒロの特殊メイクにも助けられ、天才指揮者のテクニック再現と憑依演技、しかも青年期から晩年までを違和感ゼロで演じ切った。
妻役のC・マリガンも中盤から、同性との恋愛感情を隠さない夫への複雑な心情を体現。終盤の壮絶演技には圧倒される。
「ファンシー・フリー」の有名な海兵のダンスと、主人公2人のドラマのシンクロ。あるいは「ウエスト・サイド」の曲を意外なシーンに重ねて不穏を掻き立てるなど、バーンスタインの“業績”を、変化球的に、かつ深く繋げる作りに感心しまくる。