コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話- (2022):映画短評
コール・ジェーン -女性たちの秘密の電話- (2022)ライター2人の平均評価: 4
恐ろしいことにアメリカはそこに逆戻りしつつある
冒頭に出てくるのは、主人公ジョイが抗議運動を目にするシーン。一見ストーリーと関係なさそうだが、秘密で妊娠中絶を提供する組織「ジェーン」が生まれた1968年のシカゴでは市民権運動や反戦運動が盛り上がっていたという大事な背景を匂わせるものだ。キャラクターは架空ながら、女性が生きるか死ぬかの問題を男性だけによる医師の会議が決めていたという恐ろしい状況は真実。そして今アメリカは、保守派のせいでそこに逆戻りしようとしている。偶然にも同じ年のサンダンス映画祭で上映された、本人たちが登場するドキュメンタリー「The Janes」はさらに深くこの話を語るので、こちらもぜひ日本公開されることを願う。
ニューシネマ的な反骨と理想を受け継ぐ
1968~73年の米シカゴを舞台に人工妊娠中絶を行う地下組織の活動をのびやかに描く。ニクソン当選が伝えられる箇所があり、明らかに現在=トランプ時代からのバックラッシュと二重写しの内容。『17歳の瞳に映る世界』や仏の『あのこと』、あるいは英の『ヴェラ・ドレイク』(04年)等と共振しつつ、ハリウッド的明瞭さが肝だ。
E・バンクス扮する主人公は裕福な主婦で、ブロンドの白人女性という保守的なモデルに嵌まった存在から果敢な闘士に変貌する。ロックミュージカル『ヘアー』で使われた名曲「Let The Sunshine In」で締めるように、反体制パワーが信じられた時代の高揚感で謳い上げるのが本作の良さだ。