クワイエット・プレイス:DAY 1 (2024):映画短評
クワイエット・プレイス:DAY 1 (2024)ライター6人の平均評価: 3.7
物語は原点に回帰しつつ、戦い方は発展型になる不思議な反比例
あの全人類的パニックのエピソード0を描くということで、スタート時のプリミティブな衝撃になるかと思いきや、大都会が舞台になったせいか、「音に隠れて音を出す」という巧妙な技があちこちで駆使されて、シリーズとしての進化に感心。静寂と轟音のコントラストも、過去2作以上の効果か。
余命を覚悟した人物を主人公にしたことで、「最後にもう一度、やりたいこと」が説得力をもって迫ってくる。演じたルピタ・ニョンゴは、冒頭、マンハッタンを眺める視線だけで、明日の命すらわからない切なさを表現していて、さすがだ。
カタルシスという点では今回、やや抑えめという気もするが、ハリウッド映画らしからぬ無情感な後味が、じつに妙。
奴らが地球へ来襲した「その日」を描く前日譚
音に反応して襲い来る謎のエイリアン、というユニークなコンセプトで大ヒットしたSFホラー映画シリーズの第3弾。今回はエイリアンが地球へ初めて来襲した、まさに「その日」を舞台にした前日譚となっている。しかも舞台は騒音まみれの大都会ニューヨークということで、おのずとスペクタクルなパニック映画を期待するわけだが、しかし蓋を開けてみると意外にも感動的な、時として抒情性すら感じさせる人間ドラマとなっていて驚く。末期ガンで余命幾ばくもないヒロインが絶体絶命の状況下で人生を見つめ直し、生きることの意味と向き合っていく姿を演じたルピタ・ニョンゴも好演。なおかつ猫映画としても要注目だ。
『PIG/ピッグ』監督による、お利口にゃんこ映画
『アルマゲドン』的なカタストロフィ描写から始まる“初日”。こんな状況に追い込まれても、「余命わずかなヒロインは、なぜハーレムにピザを食べに行こうとするのか?」。そんな謎を抱えた彼女と極限状況で出会うイギリス人男性との人間ドラマが展開され、前2作に通じる親子愛のドラマとして着地。「じつは水に弱い」以外、やっぱり「奴ら」の正体が明かされないのは腑に落ちないが、『PIG/ピッグ』監督による、にゃんこ映画としての見応えアリ。介助猫だけに、慌てふためく人間よりも適応能力が優れた描写は面白いが、一度ぐらい「鳴き声出して、ピンチ襲来」なベタ展開は欲しかった!
その事態が発生した瞬間を体感できる
大画面での没入体験がオススメ。前半は、タイトル通り、このシリーズが描いてきた事態が初めて生じた瞬間が描かれ、それをニューヨークの街中でヒロインと一緒に体験できる。目の前に砂塵が舞って視界が遮られ、聞いたことのない音が響く。一体何が起きているのかまったく把握できないが、ヤバイ感じだけが強くなる。予測不能な大惨事が起きた時、そこにいて感じるのは、こういうものかもしれないという感覚が体感できる。
後半は、これまでの2作とはまた違うタイプの物語が描かれるので、2度オイシイ。ルピタ・ニョンゴとジョセフ・クインが演じる2人の関係が、恋愛ではなく、もっと根源的で切実な思いに基づいているのも新鮮。
パニックの物語ではなく、パニックを生きる人の物語
『クワイエット・プレイス』前2作では文明滅亡後の世界が描かれたが、この前日談では滅亡の始まりの時期を題材にしている。
大都会NYが侵略者によって、どう滅んでいったのかを背景にしつつ、緊急事態を生きる人間のドラマを紡ぐ。死期の迫るホスピス暮らしの主人公は人生に絶望していたが、カタストロフに直面したことで生の意味を考える。そんな彼女の心の変化がドラマ面での見どころ。
前2作もドラマありきのスリラーだったが、そういう意味ではシリーズのスピリットを正確に踏襲している。音の演出の妙はもちろん健在。アップの場面の多いL・ニョンゴの熱演にも目を見張った。
3作目はデザスター
これまでの2作品はシチュエーション勝負だった感があるのですが、DAY1を描いたこの3作目は一転して力業のデザスタームービーとなっていました。特にニューヨークを舞台にしていることもあってどうしても9・11同時多発テロを想起させるものがあります。ニューヨークの観客はどう感じるのでしょうか?主人公のルピタ・ニョンゴは実はジャンル映画がとてもお上手な方ですね。表情がとても豊かで説得力があります。相手役のジョセフ・クインも大作にどんどんキャスティングされている注目株。これにジャイモン・フンスーが出てきてファンを喜ばせます。今回も100分とタイトな作りなのも好感が持てます。