八犬伝 (2024):映画短評
八犬伝 (2024)ライター3人の平均評価: 4
諦めや冷笑が蔓延る今だからこそ見て欲しい見事な時代劇大作
あくまでも「南総里見八犬伝」ではなく、山田風太郎の時代小説「八犬伝」の映画化。頑固一徹な原作者・滝沢馬琴と友人・家族の28年に及ぶ日々の歩みと、そんな馬琴の道徳的な理想を投影した「八犬伝」のハイライトが交互に描かれていく。ままならぬ人生に、不正や理不尽がまかり通る世の中。果たして正しさに価値や意味などあるのだろうか、所詮は絵に描いた餅に過ぎないのではないか。迷い悩み苦しみながらも、それでもなお普遍的な正義を信じて物語を描き続けた馬琴の想いが、二重構造の巧みな語り口によって鮮やかに浮かび上がる。諦めや冷笑が蔓延る昨今だからこそ、ひとりでも多くの日本人に見て欲しい見事な時代劇大作だ。
エンディングは創作者の夢の結実
豪華キャストによる『八犬伝』の映画化。八犬士を演じる渡邊圭祐、板垣李光人らはうっとりするほど美しく、浜路役の河合優実はいつものオーラを消していて、塩野瑛久は地上波ドラマのダメ社員役とは180度違う役柄で大健闘している(水上恒司はちょっとイメージが違った)。とはいえ、220分の長尺を使っても「虚」と「実」の世界を描くのは時間が足りなかったように感じてしまう。「実」の世界はセリフが説明的に過ぎるし、「虚」の世界はもっとファンタジックなアクションを見せてほしい。とはいえ、ろくでもない世界だからこそ正義を貫く物語を作るいうテーマはストレートに伝わってくるし、エンディングは創作者の一つの夢の結実だろう。
久しぶりのエンタメ時代劇
曲亭馬琴(滝沢馬琴)を主人公に超大作小説『南総里見八犬伝』が作られる現実の部分と『南総里見八犬伝』の名シーンを実際に描く虚の部分を交互に描くという贅沢な作りの大作映画。特に虚の部分は『南総里見八犬伝』の映像化なのでファンタジー要素が強め。さらに監督が曽利文彦監督と言うこともあって外連味とハッタリが効いていて、結果的にエンタメ色の強い時代劇となりました。時代劇自体が作られる本数が少なくなっている中で、ここまでエンタメ色に振り切った作品が出てくるのは嬉しい限りです。