ぼくのお日さま (2024):映画短評
ぼくのお日さま (2024)ライター4人の平均評価: 4.5
主人公の友人の眼差しが印象的
前作に続き、スタンダードサイズで撮影された登場人物6人。北国を舞台にした恐ろしいくらいミニマムな恋の話なのに、数週間経っても、さまざまなシーンが脳裏に浮かんでくる不思議な感覚だ。主題歌となったハンバートハンバートの楽曲から生まれたといっても過言ではなく、吃音や同性カップルといったキャラ設定に関しても、あざとさを感じず、自然と物語に溶け込んでいる。スケート経験者である奥山大史監督が滑りながら回したカメラのように、登場人物の距離感が肝なのだが、なかでも主人公タクヤの友人の眼差しが印象的。そのため、本編を観た後に「マナー広告」を観ると、かなりジワること間違いなし。
何度でも観たくなる珠玉のニュースタンダードの誕生
ファーストショットから寓話の雪国に降り立った様な美しさに呑まれる。長編2作目となる奥山大史監督(96年生)の驚くべき進歩と洗練。少年の一人称による前作『僕はイエス様が嫌い』とは趣を変え、今回は三人(or四人)を巡り「見つめる」事、視線から関係が紡がれていく。立体的な演出は橋口亮輔の『渚のシンドバッド』からの影響も大きい。
短編『白鳥が笑う』から雪景色の「白好み」を見せていた奥山だが、フィルムライクな映像の質感は今だと『ホールドオーバーズ』に補助線を引きたくなる。ゾンビーズの隠れ名曲「ゴーイング・アウト・オブ・マイ・ヘッド」が流れる至上の幸福感から、その後の痛みの描出まで真摯にして完璧。名作!
淡くて切なくてみずみずしい
前作が好印象だった奥山大史監督の待望の最新作。フィギュアスケートを題材にした映画ですが、競技についてというよりはそれを介して交わる3人の物語になっています。何よりメインの二人を演じる越山敬達と中原希亜良がみずみずしく印象深いです。演技については本作がほぼほぼ初めてとのことですが、見事な演技でした、今後が楽しみです。顔と名前を憶えておきましょう。そしてその二人を受け止める池松壮亮がまたバツグンに巧い。大作の主演もこなせますが、このくらいのスケール感の作品の脇に回っても良い仕事をしてくれます。90分のコンパクトな作品ですが見応えたっぷりです。
視線が語る深い想い。雪に射す光のような儚さを映画で愛おしむ
観た後すぐに感想が溢れない映画がある。そのせいで何日も頭から離れない。本作はそんなサンプルかも。
基本的に主人公は少年だが、彼のコーチにもかなり重点が置かれ、作品の視点が定まらない危うさを感じつつ、その揺らぎが映画の美しさに転嫁しているのは驚き。設定からして痛みを伴うエピソードがいくつも予想されるが、そこは限定的に抑え、周囲の優しさでカバーするのは監督の性格の表れか。
前作同様スタンダードのスクリーンが作品の宝石のような純然の輝きを際立たせ、監督自身が滑りながら撮ったなめらかなカメラ、リンクに過剰に差し込む夕陽の効果、音楽の切ない被り、池松壮亮のスケーティングなどハッとさせられる瞬間が多発。