マリウポリの20日間 (2023):映画短評
マリウポリの20日間 (2023)ライター3人の平均評価: 4.7
”情報戦を制するものが戦争に勝つ”時代に……
本作は、ロシアのマリウポリ侵攻の最前線にいた記者たちのリアルな記録というだけではない。ロシアが国際人道法を無視して、産婦人科病棟の母子たちをはじめとする民間人を攻撃した貴重な証拠映像であり、一方で、命懸けで取材したその情報が、大きな力によって”フェイク・ニュース”のレッテルを貼られ、瞬く間に”真実”として世界に流布される情報社会の恐ろしさを見せつける。劇中にも登場するロシアの国連大使は「情報戦を制するものが戦争に勝つ」と、今も昔も変わらぬ首脳たちの常套手段を堂々と言い放つ。その術中に陥らない為に我々は何をすべきか? 重い問いを突きつけるのだ。
目を反らしたくなる映像を、目にやきつける責務
アカデミー賞受賞のスピーチでの「こんな映画を作りたくなかった」という監督の吐露どおり、ウクライナの都市での惨状を冒頭からラストまで突きつけられる。われわれがニュースで目にした映像も出てくるが、この監督が撮ったものだと本作で認識。電話やwi-fiがほぼ使えない孤立状態で、どうやって映像を送信したかなど知られざる実情も明らかになる。
ニュースでは流せないレベルの悲惨なシーンや、瀕死の子供に成す術もなく、涙を流す医師や看護師の姿は、改めて目にやきつけておくべきだと本作は教える。そしてまだ終わらない戦争や侵攻、本作の撮影後に起きた他の国での紛争に思いを馳せる意味で、必見中の必見作品なのは間違いない。
勇気あるレポーターがとらえたみんなが見るべき映像
今年のオスカー長編ドキュメンタリー部門の候補作は意義あるテーマを持つ傑作揃いだったが、受賞したのはこれ。そこには、勇気あるレポーターが危険な場所で足を運び、伝えなければいけないことを世界に伝えたことへの評価が大きく関係していると思われる。この映画の監督で、APのレポーターであるミスティスラフ・チェルノフがとらえた現地の一般市民の映像は、実に生々しく、心が痛むものばかり。これまで当たり前に住んでいた自分の家が突然破壊されるのは、どんなことなのか?現地の映像は稀だったため、ニュースで使われたものも多数混じっているが、この映画であらためて全体をしっかりと見られるのは貴重なこと。みんなが見るべき映画。