ゴンドラ (2023):映画短評
ゴンドラ (2023)ライター3人の平均評価: 3.7
”セリフなし”が生む映画の豊かさ
山間地帯を行き来するレトロなゴンドラ。その圧倒的な画力から着想を得て制作された本作。前作『ブ ラ!ブラ!ブラ!胸いっぱいの愛を』同様セリフなし。だが言葉に頼らずとも、子供たちの通学だけでなく、棺や牛も運ばれるというゴンドラを通して描かれる日常が、ジョージアの小さな村に暮らす人々の生活を想像させ、ゴンドラがすれ違う時に交わされる主人公たちの眼差しと遊び心が恋の始まりを予感させる。そしてセリフなしが可能にした、前作に続いてのボーダレスなキャスティング。無国籍キャストによるファンタジーを得意する監督だったが、術を得たかのよう。新作は猿が主演だし。歳を重ねてますます自由になる監督の伸び代が眩しい。
自由への渇望を描いた女性同士のささやかなラブストーリー
『ツバル TUVALU』で知られるファイト・ヘルマー監督の新作は、またもやセリフなしの寓話的なラブストーリー。父親の死で実家へ戻った内気な女性イヴァは、山間のロープウェイのゴンドラ乗務員となり、もう一つのゴンドラに乗る姐御肌の同僚ニノと惹かれあっていく。何もない辺鄙な田舎、良くも悪くも狭い村社会、弱者に威張り散らすパワハラ上司のオッサン。しかし、2人の女性は想像力の羽を思いっきり羽ばたかせ、平凡で退屈な日常を楽しく輝かせていく。浮かび上がるのは自由への渇望と多様性の肯定。ロケ地ジョージアの牧歌的な風景、レトロでお洒落な美術や音楽とも相まって、実にチャーミングで微笑ましい映画に仕上がっている。
単純な動き、単純な気持ち
まったくセリフはなく、まぶしい光と笑い声と音楽がたっぷりある。ロープウェイのゴンドラ2台、一方が山を登るとき、もう一方は山を下り、その途中で1回だけすれ違う。それぞれのゴンドラの乗務員の女性2人が、互いに惹かれ合い、すれ違う短い時間にその好意を示し合う。水鉄砲を掛け合ったり、音楽を聴かせたり、その表現がどんどんエスカレートしていくのが楽しい。
監督は『ツバル』のファイト・ヘルマー。登り降りという単純な動きをする乗り物、好きという単純で純粋な気持ち、その周囲に広がる大自然。映し出されるものの色彩はすべて明るく、テンポはゆったり。そこにある空のように晴れやかな気持ちになっていく。