敵 (2024):映画短評
敵 (2024)ライター2人の平均評価: 5
見事にやられました
吉田大八監督作品でいながらちょっとノーマークだったのが今となって誤りだったと思わざる得ない作品。筒井康隆原作ということで不条理SFな展開が出てくるのだろうとは思いましたが、ここまで凄いことになるとはいい意味で裏切られました。今も、とても気持ちの良い鑑賞後感覚が残っています。映画の前半と後半で全く違う意味合いを持っていて後半を知った上で前半から見直すと別世界が拡がっていることに気が付きます。2度3度と繰り返して見ることをお薦めする映画です。主演の長塚京三はもうこの人しかいないだろうというキャスティングですね。
静謐な一人暮らしの生活に波が立ち、やがて異様なスリルも
時代は明示されていないが、パソコンなどの仕様からしてほぼ現代。しかし主人公の暮らす家や日々の食事風景、行きつけのバーなどがあえてレトロに表現され、しかもモノクロ映像と相まって、ひと昔前のノスタルジーに浸る。心地よい映画体験。
一方で描かれるテーマは後半かなりシビアで、観た人それぞれが人生の行き着く先に思いを馳せ、いたたまれない気分にもなる。これもまた優れた映画体験。
勢いのある俳優も出演しつつ、あくまでも「役にぴったり」にこだわった感のあるキャスティングに感心しまくり。シュールな演出もあって非現実世界に連れて行かれそうになるたびに、彼らの実直な演技でリアルが戻ってくる。これこそ映画体験の喜び!