ヒッチコックの映画術 (2022):映画短評
ヒッチコックの映画術 (2022)ライター2人の平均評価: 4
ヒッチになりたいボーイズが作ったドキュメンタリー
全篇その声を模したナレーションからも分かるように、映画史家マーク・カズンズ先生による「ヒッチになりたいボーイズが作ったエッセ・クリティック」。堅苦しく学ぶのではなく作品をまさぐる分析のその“手つき”を楽しむべき。名著「定本 映画術 ヒッチコック/トリュフォー」(晶文社)を読了した人向けか。
白眉だったのは、傑作『フレンジー』(72)の殺人場面からカメラが後ずさりしてゆく有名なトラッキング・ショットを取り上げ、続けて、友人の頼みで共同監督したTV用ドキュメンタリー『ナチスの強制収容所(Memory of the Camps)』(45)へと繋げるところ。現実の非人道的行為から逃げなかったヒッチ!
「たかが映画じゃないか」の本質論。
ヒッチコックほど様々な解釈的作品が作られてきた作家は稀じゃないか。これは彼の映画に現れる要素…逃避・欲望・孤独・時間・充足感・高さといった章ごとに各々の具体例を豊富に示しながら、作者自身が分析していくという手法を取る。曰く「ドアを開けることが自分の映画世界に入り込ませる手法」「私の頭の中にあるものを実現するのが映画作り」「物語や社会・心理を表現するためにカメラを高い場所に置く」等々々…。正直、これほど勉強になる映画ドキュメンタリは数少ないといえるかも知れないけれど、語りの時制は現在そのもので死者の視点からなのであり、極めて胡散臭い(笑)。まあ待て。映画とはすなわちペテンなのであるから。