ハンガー・ゲーム0 (2023):映画短評
ハンガー・ゲーム0 (2023)ライター5人の平均評価: 3.4
シリーズの一貫性を保った理想的前日談
大ヒットしたフランチャイズの前日談を原作に則って映画化。シリーズを撮り続けたF・ローレンスが監督を務めたこともあり、ドラマの一貫性にブレはない。
シリーズの何十年も前の話だが、主人公はゲームに勝てそうもない少女。当時のゲームは建物内というプリミティブな設定。シリーズとの整合は取れているし、若い女性の戦いのドラマとしても歯応えがある。
シリーズを見ていなくてもサバイバルストーリーとして楽しめるが、後に独裁者となる青年の物語であり、また“カットニス”“マネシカケス”などのキーワードはシリーズ経験者のイマジネーションを大いにくすぐるので、一作目だけでも見ておくことをオススメしたい。
未来を予感させる狂気。そこを受け取った瞬間、ザワつく…
将来、血も涙もない大統領へのし上がる人物は、どんな青年期を送ったのか? それを解読する意味で、本作は最高のサンプルだと言える。18歳のスノーの周囲へのコンプレックス、それを払拭しようとする苦心は予想どおり。しかし心をざわめかせるのは、彼が突如として発動する狂気と暴力性、そして本能的な邪悪さ。その瞬間、演じるトム・ブライスの豹変する表情に本作のテーマが濃縮される。
一方のレイチェル・ゼグラー。歌声が人々の心を変える役割だが、まぁ想定内。もう少しカリスマ性のあるボーカルだったら、さらに心揺さぶるレベルの感慨を導けたような…。
肝心のゲームはシリーズの原点に戻って強烈なバイオレンス前面だったのが◎。
今度は前・後編の内容を一本に凝縮!
“デス・ゲーム映画”疲れを経た今となっては、逆に面白く見える流行りのシリーズ「前日譚」。あってないようなルールのもと、教育者としてゲームに参加した若き日のスノー大統領が描かれるが、色恋にも発展する育成ゲームのようなプレイヤーと教育者の関係性が面白さのカギとなる。若手メインのキャストに弱さは感じるものの、『ウエスト・サイド・ストーリー』でマリアを演じたレイチェル・ゼグラーの歌姫役はハマり役。『ハンガー・ゲーム FINAL』を2部作にしたことで反感を食らったか、今回は明らかに2部作になる原作を一本の作品としてまとめており、そのテイストの違いを楽しめるか、どうかで評価も変わるだろう。
波に乗る新進俳優2人の勢いが伝わってくる
今後も話題作が続く注目株たち、主演2人の旬の魅力が味わえる。レイチェル・ゼグラーは、ディズニーの名作アニメ『白雪姫』の実写版に主演し、すでに撮影済み。英国男優トム・ブライスは本作の後、マイケル・ウィンターボトム監督によるヘミングウェイの「武器よさらば」の映画化作の主演に抜擢されている。
基本は『ハンガー・ゲーム』シリーズでドナルド・サザーランドが演じた独裁者、スノー大統領の若き日を描く前日譚。彼はどんな若者だったのか。なぜ変貌したのか。過去作リンクも楽しいが、前知識のない状態で見ても、あるヴィランの誕生を描く青春ドラマかつ異世界アドベンチャーとして楽しめる。
前作未見でも入っていけるがファンならよりときめく
「ハンガー・ゲーム」1作目の64年前の話。オリジナルの4本の映画と共通する登場人物はふたりだけ。過去の映画を見ていなくても入っていけるが、見ていれば「あれはここから始まったのか」などとわかり、より面白い。とりわけトム・ブライスが演じる主人公コリオレーナス。映画を通じて後の姿に少しずつ近づいていく彼の演技はすばらしい。ジェイソン・シュワルツマンも、抜群の演技で笑わせてくれるだけでなく、娯楽イベントとしてハンガー・ゲームが確立していく歴史を見せる。レイチェル・ゼグラーの歌声が聴けるのも魅力。今作の結末からオリジナルの最初までにはいろんなことが起こる余地が残されているので、続編が待たれる。