アメリカン・フィクション (2022):映画短評
アメリカン・フィクション (2022)ライター3人の平均評価: 4.3
風刺に満ちているけど「痛快」だけじゃない
黒人の売れない作家が、半分冗談、半分皮肉で、いかにも黒人が書きそうだと思われるステレオタイプだらけの小説を書いたら、白人だけでなく黒人の知識人層にもバカ当たりで困惑してしまうという物語。でも、それだけじゃなく、主人公の家族や周囲の人たちをめぐるドラマとタペストリーになっているのがミソ。リアルじゃない物語がリアルだと絶賛される一方で、主人公のまわりにはリアルな人生の問題が渋滞している。差別や偏見がはびこる社会への風刺を前面に出しつつ、人にとって何がリアルなのか、フィクションに振り回されすぎてはいないだろうか、と問われている気になった。風刺を見て痛快な気分になるだけじゃ済まない作品。
現実と理想の間でモヤる、すべての人たちへ
自分の仕事に対して「人から求められているもの」と「心からやりたいこと」が食い違う。これは多くの人が思い当たるはずで、共感を呼ばずにはいられない作品。
意図とは違う成功に悶々とする主人公を演じるのは高いハードルだが、ジェフリー・ライトがシリアスと軽快さの絶妙なブレンドで体現する。周囲の人物も極端なシチュエーションながら、血肉の通ったキャラに昇華され、演技のアンサンブルは一級品。
人種差別や親の介護、中年の恋などシビアな問題を変化球の視点でまとめ上げ、「ハリウッドでは誰も本を読まない」など映画業界を痛烈に笑いとばすネタまでうまく絡めた脚本の構成力が秀逸。アメリカ映画の伝統を感じさせる小粋な良作だ。
最後のシーンまで笑わせるダークで絶妙な風刺コメディ
2023年の個人的ベスト映画のひとつ。人々が潜在的に持つ偏見、ステレオタイプを、シビアかつ痛快に突く。たとえ多様化に賛成のリベラルでも同じ。事実、そういった人たちのユーモラスなシーンも多数ある。だが、黒人同士の間でもそんな状況についての考え方が違うところもまた興味深い。今作で監督デビューするコード・ジェファーソンは、自身や友人の体験もあるところへこの原作小説に出会い、共感したとのこと。このテーマで最後まで笑わせるが、ほかにも家族との関係、家族の中での役割といった、誰もが共感できる要素も散りばめられている。出演者は全員すばらしく、撮影はわずか半日だったというアダム・ブロディも絶妙。