ロボット・ドリームズ (2023):映画短評
ロボット・ドリームズ (2023)ライター6人の平均評価: 4.7
まさにチャップリン級!
ヤバいくらい泣ける。台詞なしのアニメーション。米の作家サラ・バロンの同名グラフィックノベルに感動したという『ブランカニエベス』等のP・ベルヘル監督がアニメ初挑戦。80年代NYの街並みや、夏の終わりと共に閉鎖されるビーチなどの情景をしっかり描く実写的アプローチがリアルな感情表現をシンプルな線の世界にもたらす。
擬人化された犬と商品としての友達ロボット。本作が描くのは『her』にも通じる都市生活者の孤独であり、すれ違いのラブストーリーだ。『オズの魔法使』の引用もあるが、最も連想するのは監督が影響を受けたと言及するチャップリン。実際『キッド』や『街の灯』に匹敵する語り口の洗練がある。驚きの傑作!
もはや、擬人化された「ニューヨーク恋物語」
電子レンジ越しから、冷凍食品のチーズソースが弾ける瞬間を凝視する主人公のドッグ。そんな都会に住む独り身の寂しさを表現した冒頭のカットに身震いするなか、『ウォーリー』を思い起こさせる手作りロボットとの友情物語が展開。些細な出来事から、疎遠になってしまう両者の姿は、まさに人間関係そのもので、ちょっとした「ニューヨーク恋物語」。タイトル通り「夢」がキーワードとなるなか、明らかに村上隆を意識しているお花畑はご愛敬。EW&F「セプテンバー」はもちろん、ウィリアム・ベル「ハッピー」の使い方も絶妙なビター&スイートな一作であり、『ベルヴィル・ランデブー』を観たときの衝撃にも近い。
感情をゆさぶる、優しくて切ない大傑作
甘く、切なく、ほろ苦く、楽しく、悲しく、優しい。孤独、人とのつながり、人生は予期できないということについて考えさせる。せりふがひとつもないにもかかわらず、感情のローラーコースター。ラストはいつまでも心に残る。「パスト・ライヴス/再会」に重なるものがあるという感想を聞いたが、たしかに言えているかも。ビジュアルはシンプルなスタイルながら、地下鉄の駅やチャイナタウンの店、アパートの中などディテールがしっかり描かれており、その世界にすっかり入り込んでしまう。大人な話をあえて動物のキャラクターで語るのは、アニメーションだからこそできること。この芸術の奥の深さと可能性の大きさをあらためて実感した。
ロボットは“つながり”の夢をみる
手描き感にあふれた昔風のアニメーション映像が、まず味。P・ベルヘル監督は日本のアニメに多大な影響を受けたと語っているが、それも納得がいく。
擬人化された犬と、友達ロボットの数奇な絆のドラマは、離れ離れとなった両者をつなぐ“夢”の逸話も手伝い、美しく切なく温かい。ニューヨークの四季を見据えた風景の妙、「セプテンバー」をはじめとする音楽の効果的なフィーチャーも生きた。
手を振る、手をつなぐ、笑い合う、分かち合う、そんな行為のひとつひとつから“つながり”の温かさが伝わってくる好編。
エンディングがかなり大人向き
擬人化されたさまざまな動物たちが暮らす大都会ニューヨーク。そこで暮らす孤独な犬の青年と、彼が組み立てたロボット。彼らの出会い、一緒に過ごす日々の喜び、アクシデントによる予期せぬ別離、そして、その後。2人が抱く思いが常に、セリフがまったくない形式によって、より直接的に伝わってくる。
原作コミックと同じ絵柄は子供向け絵本のように見えるが、ストーリーはかなり大人向き。とくにエンディングはこちらの予想に反しつつ、少々苦くもある複雑な味わいと共に心を明るくしてくれて、静かな余韻を残す。劇中で効果的に使われる、1978年のアース・ウィンド&ファイアーのヒット曲「セプテンバー」も切なく胸に響く。
シンプルな映像で大切なテーマを伝え、泣かせるアニメの真髄
孤独な生活が日常となった者が思いきって“相手”を手に入れる。そんな犬とロボットの友情ドラマは、ほんわか→切なさを経由し、あまりに美しい結末へ着地。アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「セプテンバー」が流れた瞬間、号泣必至だ。
誰かを思いやる。その相手の幸せを喜ぶ。そんな純粋なメッセージが、観た後しばらく心に温かく定着する。
80年代NYが舞台で、貿易センタービルのツインタワーが象徴する、失われたものへのノスタルジーも切ないし、何より、セリフなし、シンプルな作画でキャラクターの深い感情を伝えきるアニメの根源を再認識。
アカデミー賞ノミネートの中で、個人的に最も大切な作品となる人も多いのでは?