トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 (2024):映画短評
トワイライト・ウォリアーズ 決戦!九龍城砦 (2024)ライター4人の平均評価: 4.3
往年の香港アクション映画への壮大なオマージュ
かつて香港名物でもあった悪名高きスラム街・九龍城砦。黒社会の根城として警察も立ち入れない無法地帯でありながら、その一方で大勢の貧しい人々がお互いに助け合いながら暮らし、どこの馬の骨とも知れぬワケアリな人間でも受け入れる懐の深さもある。そんな地域社会の温かな人情に救われた難民の青年が、九龍城砦の利権を巡る黒社会の血で血を洗う抗争に巻き込まれていく。舞台設定は’80年代。失われた時代への郷愁をたっぷりと盛り込みつつ、義理と人情と復讐の渦巻く濃厚なドラマが展開する。まさに香港ノワール×カンフー・アクション。若手たちの好演も然ることながら、ルイス・クーVSサモ・ハンのベテラン対決がまた圧巻!
場所はなくなっても人々の記憶と心は残り続ける
世界最大のスラムであり、古き良き猥雑な香港の象徴だった1980年代の九龍城砦を完全再現! あらゆる訳アリの人を受け入れるコンクリートと電線のジャングルのような九龍城砦の中で、友情で結ばれた男たちが縦横無尽かつ荒唐無稽に戦いまくる。今はない場所での人々の生活を再現しているという意味では、長崎の端島(軍艦島)を再現したドラマ『海に眠るダイヤモンド』に精神性は近い。場所そのものはなくなっても、そこにいた人たちの歴史と記憶と心は残り続けるし、こうやって残していかなくちゃならないのだ。民衆が立ち上がるのではなく、主人公たちの戦いに焦点が絞られているのは、香港アクション映画のロマンの残り香なのだろう。
早くも2025年ベスト候補、現る!
映画オリジナルとなるキャラ設定・造形など、原作から大きく改変したものの、ファンからクラッシャーと呼ばれるどころか絶賛された、キャラ立ちまくりの『欲望の街 古惑仔』感。そして、原作とは無縁のリアタイで九龍城砦を知る年配客も巻き込んでしまった、ノスタルジックでドラマチックな『ALWAYS 三丁目の夕日』感。この2点を軸に、漢だらけの新旧キャストから醸し出される熱量、谷垣健治氏によるアクション造形など、「継承」をテーマに“エンタメぜんぶ乗せ”ながら、ざっくり香港映画史までも網羅してしまった奇跡の125分。エネルギッシュなバトルからの、おセンチすぎるラストも泣けます。
香港のラビリンス、九龍城砦が甦る
主人公は、かつて存在したが今は失われたアジアの魔窟、九龍城砦。取り壊される前、多数の人々が暮らす1980年代の九龍城砦は、昼も日光が差さず、低い天井には電線や水道管が無数にうねり、狭い路地が迷路のように続く。そんなイメージ通りの魔窟が、約10億円を投じたという巨大セットで再現され、そこに出現するのに相応しい光景と、その場所に似合う物語が描かれていく。そこに恋愛はまるでなく、人の情けと、男と男の絆の物語だけが語られていくのが清々しい。大量放出の香港映画流アクションも、この魔窟の造形を活かしたもの。登場人物が最後に独り言のように呟く「ここが無くなっても、残るものはあるだろう」の言葉が胸に響く。