オブリビオン (2013):映画短評
オブリビオン (2013)ライター5人の平均評価: 3.4
宗教哲学的な世界観の貫かれたSF大作
異星人との全面戦争の末に人類が他の惑星へ移住してしまった後の地球で、監視任務に当たる男性ジャックとそのパートナーの女性ヴィクトリア。しかし、墜落した宇宙船から発見された謎の女性ジュリアの登場で、彼らの信じる世界が音を立てて崩れていく。神秘的な映像美や宗教哲学的なストーリーが「2001年宇宙の旅」や「惑星ソラリス」を彷彿とさせつつ、アクションやロマンスを織り交ぜながら立派にエンターテインメント大作として成立させている点が秀逸。決して説明過多に陥ることなく、観客に想像の余地を残すような語り口も上手い。しかし、自分はいったい何者なのか?という自己探求的なテーマや、精神と肉体の関わりについての捉え方に、サイエントロジーの強い影響を感じるのは果たして考えすぎだろうか…?
世界観が魅力のSFハードボイルド
清潔で無菌的なスカイタワーと、朽ち果てた建物の残骸が残る荒廃した地上。計算されたそんなビジュアルに、まず心が躍る。活動的だが、どこか魂が抜けたような主人公に宿るミステリーに興味を引き寄せられる。前半のテンポの緩さは気になるものの、『月に囚われた男』を思わせる意外性に満ちたドラマに魅了された。無機的な世界観の中で、肉体の躍動を的確にとらえているのはジョセフ・コジンスキー監督の作家性だろうか。今後の作品にも注目したい。
お話は雑だが、ジオラマ的な映像美を偏愛!
偏愛の一本。お話は後半、ムリヤリな展開で完全に破綻しているが、映像美は本当に素晴らしい……というか「ちょうどいい」。CGで塗り固めすぎない視覚効果は、最近ありがちなVFXの暴走による感覚麻痺を回避しており、ジオラマ的な快楽に満ちている。過去のSF作品のパッチワークという作品組成も、リチャード・マシスン『地球最後の男(アイ・アム・レジェンド)』的な無人の地球のヴィジョンをベースとした「いいとこ取り」だとポジティヴに解釈(笑)。特にツボだったのは、緑と湖に囲まれた隠れ家のスローライフ感。アナログレコードでレッド・ツェッペリンの「ランブル・オン」やプロコル・ハルムの「青い影」を聴くシーンはグッときた。風刺の質は異なるが、1973年作品『ソイレント・グリーン』で安楽死に使われた映像と重なるイメージ。
監督のSF映画愛が大分泌!
『アウトロー』に続いて、トム・クルーズの作品選びのセンスが光った一作であることは間違いない。『惑星ソラリス』『スター・ウォーズ』をはじめ、どこかで見たシチュエーション、どこかで見たシーン、どこかで見たガジェットの連続ゆえ、決して目新しさはない。とはいえ、『トロン:レガシー』では見られなかったジョセフ・コジンスキー監督のSF映画に対する愛が全編に渡って大分泌! この「SF好きで悪いか!?」と言わんばかりの潔さは、逆に評価に値するほど。ちなみに、設定や名優のもったいない使い方など、『トロン』のスティーブン・リズバーガー監督が後に撮った『風の惑星/スリップストリーム』との共通項が多いことも興味深い。
ビジュアルはマル、ストーリーは雑
『トロン:レガシー』でのビジュアルが一定の評価を得たジョセフ・コジンスキー監督だけあって映像の美しさについては期待を裏切らない。
半崩壊した地球上に残る過去の建造物と、それでも美しさの片鱗を残す地球、そして無機質な建造物とのコントラストが美しく、空間のスケールを効果的に見せる手腕はさすが。
ただ、『トロン:レガシー』にも言えることだったが、設定や構成などストーリーの作りが雑。傑作になり得る可能性もあったテーマだけに、ドラマをもう少し掘り下げることができる監督だったら……と思うと残念。