ニューヨーク　親切なロシア料理店 (2019)：映画短評

N.Y.を舞台にデンマークのシェルフィグ監督が仏のタハール・ラヒム、英国のビル・ナイら多国籍キャストで撮った合作映画。それだけでN.Y.らしさを表しており、しかもタハールもビルも老舗のロシア料理店スタッフというのが洒落が効いていて笑っちゃう。そんな異国での苦悩を知る人たちが、DV夫から逃れてきた母子たちに手を差し伸べる。19年製作だが、今まさにN.Y. の片隅で同様の事が行われているのではないか？いや、行われていて欲しいと願わずにはいられない。そして『幸せになるためのイタリア語講座』『人生はシネマティック！』の監督の、その時代を懸命に生きる女性たちに向けられる視線は変わらず優しい。

　２人の息子を抱えてDV夫から逃げてきた若い母親、無実の罪で服役した過去を抱える元レストラン経営者、コミュ障ゆえに仕事も住む家も失った不器用な若者、恋愛不信による孤独をボランティア活動で紛らわせる病院看護師など、大都会ニューヨークで居場所を見つけられず彷徨う人々が、経営の傾きかけた古いロシア料理店ですれ違い、やがてお互いに救いの手を差し伸べ合っていく。全体的に余計なエピソードが多く、必要以上に長く感じられることは否めない。それでもなお、政治の混乱などによって生きることが辛い今の時代だからこそ、他者への思いやりや助け合いの必要性を痛感させられるだろう。

多くの人が住む大都会で、見知らぬ人に手を差し伸べてあげるという、美しいメッセージを持つ現代のフェアリーテール。さらに、「許すこと」の大切さも語るし、DV夫に悩まされる女性、家賃が払えなくて追い出される若者など、社会が抱える問題もふまえている。善意から生まれた映画であるのは明らかなのだが、見ているほうは、どうも「良い物語でしょ？」「感動するでしょ？」と言われているような気がしてしまうのだ。それはやはり、どこか現実的でないと感じさせるからだろう。「17歳の肖像」「人生はシネマティック！」など傑作を送り出してきたロネ・シェルフィグのフィルモグラフィーの中では、ちょっと物足りない作品。

老舗のロシア料理店に関わる人々による群像劇だ。DV夫から子連れで逃れた女性や失職青年、自分以外の人間を癒すのに夢中な看護師、服役を終えた男性といった全く関わりのなさそうな人々が“袖振り合うも多少の縁”を培い、困った人に救いの手を差し伸べる姿が見る人の気持ちを温かくする。Z・カザンやB・ナイ、T・ラヒムら演技派の競演も非常に魅力的だ。寂れている点を除けば、舞台はどう見てもカーネギーホール隣の「ロシアン・ティールーム」なので、実話？と思ったけれど、その後の展開で疑惑解消。L・シェルフィグ監督が考える都会の奇跡物語だが、思いやりが人から人へと伝わることを願いたくなった。

　ニューヨークの片隅で1910年から細々と続く小さなロシア料理店。移民だった祖父が始めたその店の経営者をビル・ナイがいつものように飄々と演じ、店にはこの街らしい人種も境遇も多様な人々が行き交い、見知らぬ人への昔ながらの心遣いが温もりを運んでくる。そんな人々同様に、昔ながらの種々雑多な要素が混交されたニューヨークの光景が魅力的。店のカーテンの向こうには経営者がいて、厨房の窓を開けるとコンサートホールからクラシックの音楽が聞こえてくる。豪華なホテルの宴会場、ホームレスの救済所、設備の整った大図書館と、街がさまざまな顔を見せる。そしてこの多様性雑食性こそがこの街の真髄であり力なのだと語りかけてくる。