ハミングバード (2012):映画短評
ハミングバード (2012)ライター5人の平均評価: 4
戦争が終わっても帰還兵の苦しみは続く
J・ステイサムのアクション頼りのサスペンス。だがアフガニスタンで大統領選挙が行われ、16年末にも米軍完全撤退が進んでいる今観ると、観賞後のほろ苦さが増すようだ。主人公は、闇の仕事を生業とするアフガン帰還兵。そこで稼いだ大金は、ホームレスや慈善団体に惜しみなく注ぐ。戦争の偽善を知った彼が辿り着いた、究極の偽善者の道。脚本も務めたS・ナイト監督が社会に放つ、痛烈な皮肉だ。
それにしもK・ローチ監督『ルート・アイリッシュ』にハリウッドでリメイクもされた『ある愛の風景』など帰還兵の心の闇を描いた作品が後を絶たないワケだが…、戦争に加担するというのはこういう事であると噛みしめねば!
ハードボイルドな味が光るステイサムの“本流”
ジェイソン・ステイサムというとアクション・スターのイメージが強いが、母国イギリス製の主演作に限るとその枠では括りきれない。本作も同様で、肉弾アクションは抑えめだが、ドラマの歯応えはなかなかだ。
裏町の寂寞とした空気や裏ビジネスの非道、欲に憑かれた人間模様などの、ロンドンの暗部をあぶり出した物語。孤独を寄せ合うかのような交流のドラマが核となり、それらをハードボイルドな味として引き立てる。
デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』もそうだったが、ステイサムのルーツというべき下町感覚が息づく点で興味深い。超人的アクションでは語れないリアリズムもまた、彼の魅力である。
役者ジェイソン・ステイサムの転機となる一本か
もともとジェイソン・ステイサムの魅力というのは、陰りを湛えた男臭さと寂しげな瞳(まあ、頭髪もだけど)の醸し出す色気だと思っているので、社会派ドラマとのクロスオーバーを図った本作は大歓迎だ。
今回の役どころは、戦場でのトラウマから世捨て人となった元兵士。そんな彼が、人身売買にさらわれたホームレスの少女を救おうとロンドンの裏社会へ足を踏み入れる。それは、人に言えぬ過去を背負った彼にとって贖罪の闘いでもあるのだ。
現代の欧州に蔓延する移民や貧困、戦争などの問題を絡めた物語は少なからず消化不良気味。だが、善悪では計り知れぬ心の闇を体現するステイサムの、役者としての懐の深さは十二分に感じられる。
演技者としてのステイサムに男泣き。
J.ステイサムは何故こんなに男心を惹きつけるのか。それはアクションのキレの良さ、演技者としての質の高さだけでなく、男という存在のモロさ危うさ…いってみればロマンティシズムをむんむん発散しているからだ。アクションといえば幾度かのリアルな喧嘩シーンだけな本作だからこそ、そんな彼の稀有なチャームが存分に味わえるというもの。『堕天使のパスポート』等でロンドンの移民事情を斟酌なく描いたS.ナイトらしい裏街への思い入れ。そんな階層にこそ居場所を感じ身を埋める “戦犯”と、辛い過去のあるポーランド人修道女との揺れ動く恋模様(そんなシーンで長回しを多用)…これぞイギリス映画的な渋さに情感が溢れ出る。
ジェイソン・ステイサムの「次元大介イズム」がメロウに!
ジェイソン・ステイサムは『エクスペンタブルズ』以降、高性能なマッチョスターとしての需要が増えているように思うが、むしろハードボイルド性に真価があったのでは。ストイックでタフ、だが堅気では生きられない哀愁と柔らかな色気がにじむ。本作はそんな彼の「次元大介イズム」がメロウに活かされた傑作だ。
これが初監督のスティーヴン・ナイトは、脚本作『堕天使のパスポート』『イースタン・プロミス』同様、ロンドンの移民社会を舞台に「ノワール+メルヘン」の味わいを創出する。裏通りの淡い恋模様がまた絶品!
アクションは主に喧嘩程度だが、ステイサムなら『PAKER/パーカー』でしょ、というシブ好みの人には超おすすめ。