それでも夜は明ける (2013):映画短評
それでも夜は明ける (2013)ライター4人の平均評価: 4
観客に゛痛み゛を疑似体験させる勇気
本年度米アカデミー賞にて作品賞をはじめ3部門制覇。だが今年は、他にも黒人差別を題材にした作品はあった。その差は何か。恐らく本作が最も、虐待の痛みがダイレクトに伝わってくるのだ。それは加害者役にM・ファスベンダーら著名俳優を起用した事が大きい。無名の俳優と違い、彼らの表情がくっきりと我々の脳裏に焼きつき、鑑賞後はいつまでも不快感が残るのだ。
思えばS・マックィーン監督の作品はいずれも、人間のおぞましいほどの暴力性を容赦なく描き、軽いトラウマを植え付ける程だ。一貫するのは、痛いモノは痛いとしっかり伝えるというポリシー。その監督の趣旨に理解を示し、共犯者となる俳優陣の勇気にも拍手を送りたい。
理不尽な暴力を執拗に見せられ、目撃はやがて激痛に変わる
客観視できない。被差別を追体験することになる映画だ。白人と変わらぬ生活を送っていた黒人が突如として自由を奪われ、屈辱を味わう。理不尽な暴力を受ける地獄の日々を、スティーヴ・マックィーン監督は長回しで執拗に見せる。目撃はやがて激痛に変わっていく。
19世紀半ばの実話だが、無関心と排外性が高まる現在に向けられたメッセージでもあるだろう。脚本は終盤に大きな瑕疵がある。しかし重要なのは、アメリカでは国の成り立ちの暗部を新たな視点で見つめる映画が恒常的に生まれ、それを業界団体の最高峰である芸術科学アカデミーが評価して世界に知らしめることだ。翻って、わが国はどうだろう。
プロデューサー、ブラピの美味しいとこ取り
よく知らない連中との飲み会から一夜明けると、鎖に繋がれていたという『ホステル』ばりにホラーな冒頭から、次々ヘビイな展開を畳み掛けてくれる本作。まぎらわしい名を持つアフリカ系イギリス人の監督は、前作『SHAME−シェイム−』同様、観客を主人公に感情移入させようなんて思っちゃいない。奴隷として、雇い主を転々とした男が体験する12年を淡々と描くのみ!
とはいえ、監督以前に、写真家・彫刻家として評価されていた彼だけに、画作りを含め、かなり計算されているのが分かる。そんななか、風のように現れ、去っていくスナフキンのようなブラピ。自身がプロデューサーなので、美味しいところをかっさらってくれます。
祝・オスカー受賞。でも中身はハードコア!
先日発表されたアカデミー賞で作品賞を獲得。とはいえ、『カラーパープル』的な感動作だと油断してたらギョエ~!!と度肝を抜かれるので要注意。むしろ『マンディンゴ』顔負けの残虐描写が炸裂する。しかも臨場感たっぷり。幸福な日常が一瞬にして生き地獄へ――というお話の構造はある種の不条理劇に近い。
監督はアフリカ系イギリス人のスティーヴ・マックィーンだが、『SHAME-シェイム-』でも組んだマイケル・ファスベンダーとの特濃変態タッグが表現的な核ではないか。ルピタ・ニョンゴの助演女優賞はもちろん喝采だが、実質はファスベンダーやポール・ダノなど、狂気に憑かれた白人たちのドSな怪演のほうが強烈な印象を残す。