フルートベール駅で (2013):映画短評
フルートベール駅で (2013)ライター2人の平均評価: 4
世界で抗議デモが起きている今、ぜひ見直したい作品
今、世界で起きている抗議デモのきっかけは、ミネアポリスの黒人男性ジョージ・フロイド氏が警察に殺された事件。だが、似たような出来事は過去にも多く起きてきた。今作は、オークランドで警察に殺されたオスカー・グラント氏の1日を追うもの。あんなことが待ち受けていると予想もしないその大晦日、彼は、家族と話し、職場に顔を出して、魚売り場にいた女性にレシピを教えてあげる。模範的人物ではないにしろ、彼は普通に毎日を生きている人だった。その命が無残にも奪われたのだ。今作にて監督デビューを飾ったクーグラーもオークランド出身の黒人で、静かなトーンの中にも強烈なメッセージが伝わってくる。
貧しさゆえに明日を奪われた若者の物語
貧困層の黒人というだけで警察官に射殺された青年。全米で大問題となった事件の映画化である。
主人公オスカーは無職で逮捕歴のある元ヤクの売人。ありきたりなスラム街のチンピラだ。しかし、そんな彼にも愛する恋人や娘がいて、大切な母親や親戚がいて、苦楽を共にしてきた友人がいる。なにより、彼自身が真っ当な人生を歩もうと懸命にもがいていた。
人は生まれ育った環境を選べない。本作はまるで虫けらのように殺された若者の最後の1日を通じ、貧しさゆえ競争社会のスタートラインにすら立てない人々の、ささやかな幸せと声にならない苦しみを丹念に拾い上げていく。詩的な叙情性すら漂わせた演出が、かえって胸に深く突き刺さる。