ハッピーボイス・キラー (2014):映画短評
ハッピーボイス・キラー (2014)ライター3人の平均評価: 3.7
シリアルキラーもメルヘンの世界を生きてよし!?
シリアルキラーを主人公にしてその凶行を描いているとはいえ、バイオレンス色は極薄。ダークというより、むしろ陽性の印象を受ける。
まず主人公が、どこにでもいる普通の労働者というのがミソ。好意を抱いていた女性たちを図らずも殺してしまう彼に共感は抱けないにしても、同情の余地はある。バッド・ケースが連続する不運に、ブラックユーモアがにじむ。
もうひとりの功労者はマルジャン・サトラピ監督。『チキンとプラム』で童話のような映像世界を展開させた彼女だが、その手にかかると工場やガススタンドなどのありきたりの風景も色彩とライティングでメルヘンと化す。こんな奇抜なファンタジーは見たことがない!
常識(?)を覆すサイコ殺人者が誕生!
見終わって「今見たのは何だったの!?」と感じたし、物語自体は果てしなくダーク。なのに奇妙なおかしさが全体を支配しているので、ときにクスクス、はたまたゲラゲラ。不思議だ。大半がサイコ殺人者の視点で語られているのが新鮮だし、それが主人公ジェリーの妄想とわかる場面とのギャップが衝撃的だ。妄想と現実とではパステル調VS暗色と色調や画像のトーンがガラリと変わり、現実の禍々しさを浮き彫りにする。ジェリー役にコメディセンスに定評があるライアン・レイノルズを配役したのは大正解! 生来の愛されキャラのおかげでいる側の同情心を誘う。ノーマン・ベイツやパトリック・ベイトマンと違うタイプのサイコ殺人者が誕生した!
ライアン・レイノルズはこういう世界が好きだと思う
主演のライアン・レイノルズは、マーベルきってのアブナいヒーロー、デッドプールが大好きで、その映画化を実現させた人物。その彼がシリアルキラーを演じ、監督はイランで過ごした子供時代を描くアニメ「メトロポリス」を撮り、イラストも描くマルジャン・サトラビ。となれば「デッドプール」の予習のためにも見ないわけにはいかない。キャラ設定も主人公の妄想もストーリーも定番のストレートで、デッドプールのようなブラックなギャグ感覚がないのは残念だが、主人公が見ている妄想世界を、徹底的にカラフルで明るい色で描いているところがユニーク。エンディング・クレジットの映像で、そのカラフルさと異常な明るさが極まっている。