インヒアレント・ヴァイス (2014):映画短評
インヒアレント・ヴァイス (2014)ライター5人の平均評価: 3.8
モット、パンケークヲヲヲヲ!
LAに生まれ、当初その地を舞台にし続けたPTAが、久々に生地の、しかも自分の生まれた時代を背景にしたハードボイルド・コメディ。なに? 物語がよく判らない? そんなのチャンドラーのパロディばりなピンチョンの原作もそうだし、映画ではH.ホークス『三つ数えろ』以来の伝統で、“グルーヴィ”できればどうでもよくなるはず。次々と現れるフザケたエロキャラ(マッサージ嬢ジェイド最高!)と、怖いんだかなんだかよく判らない警察と悪の組織に、マリファナの紫煙にラリったJ.フェニックスともども流されればいい(だから最初ノれなければ最悪かも)。選曲も相変わらず素晴らしく、N.ヤングとCANとM.デニーには参った。
サイケデリック探偵劇の奥深さに近づけるか!?
ポール・トーマス・アンダーソン監督が「ブギーナイツ」以来、久々に放つ1970年代のドラマ。それだけで十分に期待できたが、中身の密度の濃さは期待以上のものだ。
ドラッグ吸引が当たり前のヒッピー社会で生きる私立探偵のドラマは混沌とともにスリルを増す。謎を解き、ある人物を助けようとする彼の奔走は、その混沌ゆえに目が離せなくなる。
正直、設定が複雑過ぎる本作は誰にでも勧められるミステリーではない。しかし作品を見ながら思考する熟練の映画ファンには、ぜひ見て欲しい。ラストのテロップで示される“舗道の敷石の下にはビーチがある!”の意味を考えるだけでも歯応えがあるのだから。
イマイチ話が見えてこないハードボイルド風群像劇
くたびれた場末の私立探偵が、依頼人の美しきファム・ファタールによって、不可解な事件に巻き込まれていく。レイモンド・チャンドラー的なハードボイルドの王道を踏襲しつつ、’70年代初頭のL.A.を舞台にした本作は、「マルタの鷹」というよりはサイケでフラワーな「ロング・グッドバイ」といったところか。
ミステリーよりも70’sのヒッピー・カルチャーや、複雑に入り組んだ人間模様に重点が置かれていることもあってか、のらりくらりと煮え切らないストーリーにフラストレーションは溜まり気味。本来、群像劇はアンダーソン監督の得意とするジャンルなはずだが、本作に限っては今ひとつ精彩を欠いている印象だ。
山無し、オチ無し、意味なしって、これぞ究極のヤオイ映画
一見ミステリー風で、実はマリファナ漬けの探偵がいろいろな場所でとんでもない事態を引き起こすコメディだった。ヒゲ面のホアキン・フェニックスの冗談とも本気ともつかないトリップ感が非常に効いている。登場人物が多い上に多彩で、群像劇が得意なポール・トマス・アンダーソン監督が惹かれたのも納得。ただし次々と登場するキャラクターを整理するのが一苦労だし、「こいつ、いらなくね?」と思われる人物にイラつくことも!? 70年代ファッションや豪華なセット、エンドクレジットの書体に至るまで凝った映像はおしゃれで、一見の価値あり。とはいえ物語としては山無し、オチ無し、意味なしな感じ。究極のヤオイ映画といってもいいかも。
変化球ハードボイルドにニヤニヤクラクラ
サエない私立探偵にファムファタール、とくれば、いわゆるハードボイルドの様式なのだが、ハードではなくフニャフニャ、クールではなくホット。70年代の色調と音楽、ホアキン・フェニックス演じる主人公は、モミアゲが長く汗かきで暑苦しい。ハードボイルドのお約束のナレーションは、主人公の独白ではなく、女性の声による注釈で、これがかなりおしゃべりなのに、登場人物たちもよくしゃべるので、トマス・ピンチョンの原作に負けない言葉の洪水に翻弄されるばかり。しかも笑える。そんなあれやこれやで幻惑する趣向なのかと思ったら、事件の裏を暴く謎解きストーリーがしっかりしていて、ちゃんとお話の最後まで引っ張って行ってくれる。