アラビアの女王 愛と宿命の日々 (2015):映画短評
アラビアの女王 愛と宿命の日々 (2015)ライター2人の平均評価: 2
カラフルな経歴の女性の人生を単純に描くってアリ!?
アラビアのロレンスより先に砂漠のロマンに魅了され、考古学のパイオニアとなった貴族令嬢カートルード・ベルの人生をヴェルナー・ヘルツォーク監督が描くとあって期待が高まるわな。でも政治的メッセージは皆無だし、イギリス外務省の諜報員としての側面はほとんど無視された、恋を失った女の一代記になっていてがっかり。イラクにおけるスンニ派VSシーア派問題やクルド人をはじめ、中東が抱える問題の原点はアラブ通だったベルの独断という説もあるわけで、彼女が境界線を決めた経緯やそこに至った心模様をもっと描いてほしかった。聡明で先進的で華麗な経歴を持つ女性の人生がこんなにフラットに描かれたことに驚いたよ。
風が、砂漠の上をどこまでも吹き渡っていく
オープニングクレジットとエンディングクレジットの双方で、風が広大な砂漠の上をどこまでも吹き渡っていく。その2つに挟まれた本編で、主人公は砂漠の上をラクダで進み続けていく。そのようにして砂漠の風のごとく描かれる主人公の人物像が清々しい。
主人公は20世紀初頭の英国が息苦しく、砂漠に行って初めて呼吸するのが楽になり、生涯に渡って砂漠を行きながら、砂漠の美しさを書いていく。実在の人物がモデルなこともあり、家族や恋愛もあれば政治も絡むが、ヘルツォーク監督はそうした伝記的事実には比重を置かず、ただ砂漠を愛してそれに徹した人物を描く。主人公の心が高揚するとき、砂漠の空がより高さを増していく。