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風立ちぬ (2013):映画短評

風立ちぬ (2013)

2013年7月20日公開 126分

風立ちぬ
(C) 2013 二馬力・GNDHDDTK

ライター5人の平均評価: ★★★★★ ★★★★★ 4

なかざわひでゆき

あくまでも男のファンタジー

なかざわひでゆき 評価: ★★★★★ ★★★★★

ゼロ戦の設計に携わった航空技術者のあくなき情熱と生きざまを、愛と夢とノスタルジーたっぷりに描くジブリ最新作。世間では過去の戦争犯罪を美化しているのではないかとの批判もあるようだが、これは政治家でも思想家でもない、ただひたすら飛行機作りに魅せられただけの男の物語であるということを忘れてはなるまい。そもそも歴史における犯罪云々というのはあくまでも結果論に過ぎず、立場によってその判断や見方も大きく変わるものだ。これは、そうした不幸な時代の渦中にあったごく平凡な人々の日常を切り取った作品であり、その時代に生きた人の視点で過去を語るという意味において正しいと思う。

ただ、夢と理想にとりつかれた主人公の時として自己中心的な言動は、私のような凡人にとって理解しがたい点も数々(笑)。それが男の美学だと言われてしまえばそれまでだが、なかなか感情移入しづらい。また、処女性を美化しすぎたヒロインのお涙頂戴にもあざとさを感じる。「金麦」の壇れいと一緒でさ、そんな都合の良い女、童貞男の妄想の中にしか存在せんよ、などと突っ込みたくなったりして。そうした点も含めて、これは男の大いなるファンタジーの世界なのだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
清水 節

感動と反撥をもたらす美しく空しい究極の私映画的ファンタジー

清水 節 評価: ★★★★★ ★★★★★

 空翔る夢と日常を往き来する淡々とした描写から迸る、飛行機作りと愛する女性へ捧げた男の一途な想い。零戦の生みの親にサナトリウム文学の作家の物語を融合させたとは言うが、理想や美に打ち込む二郎の人物像は、宮崎駿そのもの。彼に魂を与える庵野秀明の声が、もの作りへの偏執と秘めたる狂気を表現する。いわば偏愛と妄想の私映画的ファンタジーだ。▼震災、不景気、貧困、軍靴の音。あの頃とよく似た今への警鐘。行き詰まった時代の空気と、それでいて牧歌的な風景と、薄幸な女性の切迫感がもたらすものは、切なく儚い。風を媒介に愛の交感を表わす場面は宮崎アニメの真骨頂。但しヒロインを美化し悲劇性を高めるあざとさは、作家の手管である。▼二郎の手掛けた戦闘機が辿る忌わしい戦禍を省略したことは残念だ。戦闘機を愛しながら戦争を忌み嫌う自己矛盾を抱えた宮崎駿が、二面性を掘り下げる描写を回避した結果に映る。▼本作は「今を精一杯生きるしかない」と語り掛ける。時代に抗いつつ半歩先を予見してきた作家が、この上ない空しさを語り、美しいものだけを見せる。まだ醜く酷たらしい世界を生きていく者として、この諦観に反撥を覚えないわけにはいかない。

この短評にはネタバレを含んでいます
くれい響

声優・庵野秀明の作品の破壊力は想像以上

くれい響 評価: ★★★★★ ★★★★★

オリジナル要素が入っているものの、キャッチコピーでその名が挙がっている航空技術者・堀越二郎を主人公に、作者・堀辰雄自身がモデルである純文学「風立ちぬ」を描いた本作。日活映画のオマージュが強かった『コクリコ坂から』に続いて、ここまでノスタルジー推しなのは作り手の高齢化と関係があるのか? 難病モノをベースに、ロマンティックな幻想シーンに、悪人が出てこない展開。『千と千尋の神隠し』以来、久しぶりの2時間越えの尺だが、題材が題材だけに夏休みの課題図書を読んだときのような感覚となる。ただ、その満足感を十二分に得るためには、耳をすましてはいけない。想像以上に、声優・庵野秀明の作品の破壊力は強大だからだ(TVスポットで流れない事実は、作り手側もその落ち度を認めたか?)。そのぶん、過去のジブリ作品で起用された女優たちと同様、及第点の仕事をしている瀧本美織(声優初挑戦)の株が上がることだろう。

この短評にはネタバレを含んでいます
相馬 学

苦難の時代を忘れるほど夢中で生きているか?

相馬 学 評価: ★★★★★ ★★★★★

主人公に感情移入できる理由は、飛行機の設計という仕事を“好き”でやっていることに尽きる。そこには義務感や損得感情といった打算は介在しない。震災~戦争という激動の時代に置かれても、この“好き”は揺るがない。言い換えれば、恋愛を含めて、周囲が見えないほど生きていることに夢中になっている、ということ。主人公はスパイダーマンのようなスーパーヒーローではなく、ごく普通の男だから、“大いなる力には大いなる責任が宿る”ことを自覚しておらず、結果的に戦争兵器を作ってしまうのだが、それを断罪するのは本作の文脈ではフェアではない。時代が課した苦難を忘れるほど何かに入れ込んだ者のドラマとして、ここには胸に迫るものがある。

この短評にはネタバレを含んでいます
森 直人

宮崎駿の小市民的「いい男」論

森 直人 評価: ★★★★★ ★★★★★

本作は、明らかに“あえて”脇をがら空きにしているところがある。つまり「戦闘機を開発する主人公は自らの戦争責任について自己批判しないのか?」というツッコミを想定しつつ、軍事産業に携わるサラリーマン航空技師の話に踏み切っているのだ。もし筆者が青春期にコレを観ていたら、どうしてもこの点に引っ掛かっただろうし、宮崎自身も初期作品ではもっと潔癖な理想主義に傾いていたのは周知のとおり。だが時代の荒波に対する自分の無力さ、ちっぽけさを痛感しているオトナの男にとって、『風立ちぬ』の堀越二郎の生き様はものすごく染みる。彼は「仕事」と「愛」という人生の二大テーマに沿い、あくまでも身の丈で、いま、自分にやれること=“DO MY BEST”をシンプルに、日々淡々と、余計な愚痴を言わずに貫くだけの小市民だ。そんな二郎を「いい男」のロールモデルとして宮崎駿が描いたことが驚きだし感動的。荒井由美の「ひこうき雲」(この曲はロマンポルノの名作『母娘監禁・牝』でも印象的に使われていた)が締め括る余韻も素晴らしく、ラストは脳内再生するだけで泣けてしまう。

この短評にはネタバレを含んでいます
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