福福荘の福ちゃん (2014):映画短評
福福荘の福ちゃん (2014)ライター3人の平均評価: 3.7
さあ今、銀河の向こうに飛んでゆけ!
何が凄いって大島美幸に女を感じる瞬間が皆無。そこそこ下品だが下卑てはおらず、博愛に近い純粋さを持ちながらも、恋にまつわる心の傷から長年逃れられない…そんなおっさんは現実にはなかなかいないし、だからこそ藤田容介的メルヘンなのだが、その担い手で今回は親友役の荒川良々と風貌が酷似していることもあり、イロモノ性無しの男性キャラとして大島がしっかり機能しているのだ。性格のボーイッシュさがにじみ出る水川あさみがヒロインというのもバランス良し。この浮世離れした物語のテーマソングが、上條恒彦のスペイシーな名曲「出発の歌」というのも最高!これ一作で終わらせるにはちょっと勿体ない気にもさせる佳作だ。
大島美幸という個性があってこそ成立した作品
女芸人がオッサンを演じる、という話題性が全ての映画かと思いきや、これが然にあらず。天真爛漫な少年がそのまま成長したような純朴さと、いじめられっ子だったゆえの傷つきやすさを兼ね備えた主人公の福ちゃん。ある意味で男の“性”を感じさせない彼のユルキャラ的な愛くるしさが成立したのは、やはり大島美幸という特異な個性あってこそだと言えよう。
内容的には昭和の人情喜劇にも通じるものがあり、その意味でも純和風顔な大島は適役。器用に生きることのできない人々を描く物語は、時に人間や社会の暗い一面を垣間見せるが、しかし藤田監督の福ちゃんやアパートの住人たちに注ぐ眼差しはとても温かい。じわじわと心に滲みる佳作だ。
大島美幸の愛されキャラが生きたほのぼの物語
女芸人がおっさんを演じる、一発芸みたいな映画かと思ったら……。大島美幸が演じる福ちゃんをすぐに大好きになり、彼の幸せを願うありさま。だって仕事もできて、人望も厚い好青年だよ。と、まさに藤田容介監督も術中にハマったわけだが、これには大島の愛されキャラが功を奏している。彼女は美人ではないが、愛嬌とほのぼのした空気感が素敵な女性だ。だから不細工設定の福ちゃんも彼女が演じると、朴訥でピュアな青年として輝き出すのだ。アパートのダメダメ住人や初恋の女性が福ちゃんに惹かれていくのも当然なり! 親友シマッチはじめ、歌がやけに上手な塗装工、スケベな有名カメラマンなどの面白キャラでゆるい笑いを誘うのも好み。