ソロモンの偽証 前篇・事件 (2015):映画短評
ソロモンの偽証 前篇・事件 (2015)ライター5人の平均評価: 4
「アルビノーニのアダージョ」で『審判』へと繋がる。
いわゆる「自然な演技」ってやつをワークショップして学びました、的な若手俳優の均質さも含め、「上出来の中学生日記」っぽいジュヴナイル感が横溢。ゆえに突出した演技はないが個々のキャラ立ちはなかなか。純粋で公明正大な、ある意味むかしの松竹女優的なパワーを感じさせる藤野涼子はじめ、狂気じみた暴力性を発散する清水尋也、怪奇的なまでに負のオーラをまとわせた石井杏奈、贖罪意識を脅迫的に植えつける望月歩……素人以上に朴訥な前田航基に至るまで一人ひとりがこの物語に必要不可欠なピースだと、この前篇が終わるころには思えるはず。大人パートはややクリシェにとどまるが、神経衰弱に陥る教師・黒木華が異質の存在感だ。
子供はいつまでも子供ではない
とある中学校で男子生徒が転落死する。当初は自殺と考えられたが、謎の告発状によって殺人の可能性が浮上。学校内裁判へと至るまでを描いた前篇は、告発者が誰なのか、少年は本当に殺されたのかという疑心暗鬼が渦巻く中、いじめや虐待など平凡な中学生たちを取り巻く様々な問題が浮き彫りにされる。
物語の軸となるのは自立心の芽生え。それぞれの立場や思惑で子供を守ろうとする大人たちだが、それがかえって子供を混乱させ傷つけてしまう。学校内裁判はそんな大人へ対する子供たちの独立宣言とも言えよう。
藤野涼子ら少年少女の演技は素晴らしい。あえてショッキングな描写を絡めることでメリハリをつけた演出も日本映画的で好きだ。
サスペンスというより軽くホラー
まずはあの膨大な原作をまとめた上げた真辺克彦氏の脚本を評価したい。見どころの校内裁判を後篇にすれば、いかんせん前篇は登場人物の紹介に陥りがちだ。だが主人公・藤野涼子のドラマを縦軸にし、裁判を仕掛けるに至った、同級生のイジメ問題の傍観者であった悔恨を徹底的に描き出す。それは観客に対しても「身に覚えがあるでしょう?」と責めているかのようで、心理的に怖い。
何より賞賛すべきは、全くの素人も含めた中学生役の子供たちの魅力を引き出した演出力だ。彼らの自然な演技は、プロである大人たちの演技がクサく見えてしまうほど。おかげで後篇へのハードルは相当上がってしまったが・・・期待しましょう。
いい意味で、日本映画的な力技で押し切る
校内裁判が開廷されるまでの前篇だけで『紙の月』超え。「中学生日記」特別篇な匂いがする導入部こそ、若干戸惑うかもしれないが、告発状でマスコミが動き始めてからの力技による疾走感がスゴい。時折、挿入されるホラー演出も、いい意味で日本映画的だ。ribbon永作とE-girls石井のどこかエキセントリックな母娘に、池谷のぶえと塚地武雅の笑わせないどころか涙を搾り取る似た者夫婦。そして、五郎…いや松重豊の絵に描いたようにオトコマエな教諭と、ガッチリ固められたサブキャラが魅力的だ。本作と心中する意志も感じる女優・藤野涼子の可能性は未知数だが、ドルオタ的にはAKB48岩田華怜を探せ、というお楽しみもあります。
中高生は、恋だけしてるわけじゃない
日本映画では、中高生たちは恋愛しかしないのかと思っていたら、間違いだった。この映画の中学生たちは、自分が正しいと思うことは何なのか、自分がどう行動するべきなのかを考える。友情がある。大人たちの欺瞞への怒りがある。そういう、昨今のスクリーンにはなかった生徒群像が、新鮮。生徒たちを、プロの俳優が演じるのではなく、全国でオーディションされた中学生たちが演じているのも、この新鮮さの一因となっている。ヒロインは、潔く、清廉だ。残念なのは、謎解きサスペンス要素の「後編」への繋げ方。もっとも、その弱点は自覚されていて、それを補うための「後編の予告編」が付加されている。