チョコレートドーナツ (2012):映画短評
チョコレートドーナツ (2012)ライター4人の平均評価: 3.8
マイノリティの心情を代弁した普遍性が魅力
同性愛に対する世間の無理解に怒りを抱えたダンサーと、冷静に現実との折り合いを付けようと模索する弁護士という対照的なゲイカップルを通じて、マイノリティならではの複雑な葛藤を明確に描いた点がいい。そこへ孤独なダウン症の少年との絆を絡めることで、偏見に晒された全ての人々の心情を代弁する普遍性を備えた。
ただ、ゲイや障害者に関する情報が著しく偏っていた70年代にあって、彼らの養子縁組を認めなかった法の判断は自然であり、判事や検事は差別を差別と認識していなかったに違いない。その点、主人公側に寄り添い過ぎて法の側を冷酷な悪人のように描いたため、特に後半は感傷的なメロドラマに陥ってしまったように思える。
LGBTの戦いが終わる日が来ることを望みます。
薬物依存症の母親にネグレクトされたダウン症の少年マルコを養子に迎えようと頑張るゲイ・カップルが直面する差別や誤解を通し、正義や人権を考える人間ドラマだ。同性婚を合法とする州が増えるなどアメリカにおけるLGBTへの理解はここ数年かなり進んだ。しかし本作を見れば、わずか30年前までは彼らを取り巻く環境は実に悲惨だったことは明らかだ。「同性愛者は良き親にはなりえない」という歪んだ偏見を持つ人々が少年の希望や利益を踏みにじり、幸せに暮らせるはずだった3人を蹂躙する過程には第三者でしかない身でも怒りを覚えた。今は失望や憤りをバネに権利を拡張してきたLGBTの戦いが終わる日が来ることを望むのみだ。
正統的社会派映画ではあるけれど。
社会から除け者扱いされる3人のアウトサイダー。彼らはそれゆえの共感でもって、疑似家族的な安住の地を見つけ出すが……。そのアウトサイダーがゲイ・カップルとダウン症児というのが今までになかったところだけど、作りとしては至極まっとうな社会告発劇(といっても舞台は’79年)。LGBTアクティヴィストでもある才人アラン・カミングの感情ダダ漏れなチャームと、これまで決して印象に残る俳優ではなかったG.ディラハントの抑え目ながらも内に怒りを湛えた演技の魅力は大きい。でも何度か繰り返される“引き離された家族”のカットバックはあまりにも教科書的かつ感傷的で、いささか興醒めするのも事実。
美しい「大人」がいる
まいった。こんなに良い映画だとは…!と、きっと誰もが驚く傑作だ。
最近相次ぐ70年代実話の映画化だが、まさに今、特に子育てにまつわる事件が頻発する日本で観られるべき内容。責任能力を全く欠いた母親を持つダウン症の少年を、赤の他人である“パパ2人”が引き取ろうとする物語。血縁を超えた「家族」を改めて問う。『ハッシュ!』や『キッズ・オールライト』をさらに一歩転がしている。
演技はアラン・カミングの熱量が圧巻だが、人物像としては弁護士ポール(G・ディラハント)こそキモ。彼はありったけ以上の勇気で、冷静に世間やシステムとの軋轢と闘い抜く。筆者は彼の在り方に、今後必要な「理想の大人」の姿を見た。