シンプル・シモン (2010):映画短評
シンプル・シモン (2010)ライター3人の平均評価: 3.3
北欧のかわいいもの好きの世界に、毒が一滴
カラフルでボップでドリーミィ。インテリアもテーブルの上の食器も、北欧のかわいいもの好きならたまらない色彩とデザイン、スイートなスウェーディッシュ・ポップもたっぷりに、アスペルガー症候群の弟がお兄ちゃんの恋人を探そうとするラブ・コメディ。
なのだが、実は、胸を突かれる瞬間が用意されている。シモンと兄の絆は堅く、シモンが現実に対応できなくなるたびに自作宇宙船に閉じこもるときも、彼を愛する兄だけが彼を現実に呼び戻せる。だがそんな兄ですら、シモンと世界の関係について、ある誤った思い込みをしていたことが明らかになる瞬間があるのだ。その痛み。それがあるから、本作はただのスイートな物語に留まっていない。
日常的に『2001年』観るのはアリだと思う。
のっけからセンスがいい。「宇宙には感情がないから好き」とのたまうシモンの精神的基盤を表してもいる円形&天文モチーフのアニメタイトルがまず洒落ている。彼の好きな色は赤と青。三角形は大嫌い。部屋の壁紙もインテリアもぜんぶ円形。さらに彼の見るものはすべて、『主人公は僕だった』的な理系グラフィックで示される。アスペルガーを理由に傲慢かましてるように見えもする主人公だが (ま、彼がそうなったのには、家族の善意が裏目に出たトコもある)、アメリカ映画のスクリューボール・コメディって概してそんなキャラでできていたことを考えると、そうした系列の末裔と捉えることもできる。いかにもラブコメな予想のつく結末も含めて。
アスペルガー症候群の視点を通して見える世界
障害者を主人公にした映画というのはとかく深刻になりがちだが、北欧映画独特のユル~いユーモアを交えつつ、障害もまた一つの個性として捉えた本作の楽天性は特筆に値する。
アスペルガー症候群の若者シモンの視点から見える世界を、手作り感覚のポップな視覚効果によって具体的に映像化するという試みも画期的かつ効果的。物事を論理的にしか解釈できない彼の巻き起こす珍騒動を通じ、我々人間がいかに“非論理的”な生き物なのかを気付かせてくれる。
兄アレクサンダーに負けず劣らず美形なビル・スカルスガルドのキュートな演技、随所に散りばめられたノスタルジックな雑貨や家具など、オシャレ好き映画女子を悩殺する要素も満載だ。