イーダ (2013):映画短評
イーダ (2013)ライター2人の平均評価: 5
そして彼女はどこへ行くのか?
モノクロ、スタンダード。人物がアップになるときは、画面の3/4~1/2を背景が占める。この比率は伝統的に、人物が社会的・歴史的なものを背負っていることを表すだろうし、事実、出自を初めて知る修道女イーダと、共産主義色が濃かった時代の検察官として“人民の敵”を処刑してきたおばは時代の落とし児なのだ。作中でこれが何年の出来事と示されることはないが、それを特定するにはポーランド史、と言わずともカヴァレロヴィチやワイダからポランスキに至るポーランド映画史の知識を作品自体が求めている気もする。バッハ(『惑星ソラリス』のテーマ!)からコルトレーン「ネイマ」や数々のポップスを縦断する音楽もいちいち意味深。
映像の豊潤さに魅了される珠玉の80分
80分のモノクロ映画で小品と呼べるが、中身は驚くほど豊潤で味わい深い。とりわけ、スタンダード・サイズに収められた映像の端正な魅力に強く引き寄せられる。
聖と俗が接近する引力を見据えたドラマはメリハリのある映像で語られ、雪や壁の白、土やドレスの黒が鮮烈な印象をあたえる。ヒロインの顔に光りを当て、叔母には影を作る、そんな陰影の対比にもこだわりが垣間見える。
面白いのはヒロインの顔の位置。それは映像の下方に置かれることが多く、上部には天上の神が見守っているような余白がある。そして彼女の顔を中央に置いた象徴的なラストへ。何を見るかは人それぞれだが、歯応えのある秀作であることは間違いない。