ジヌよさらば ~かむろば村へ~ (2015):映画短評
ジヌよさらば ~かむろば村へ~ (2015)ライター4人の平均評価: 4
東北の寒村で、な、なんと『ツイン・ピークス』を!?
今さらながら「ジヌ」なんである。すまん。でも(たぶん)誰も言っていないので指摘する。これ、いがらしみきお原作ベースの、D・リンチ的(というか『ツイン・ピークス』的)な「松尾スズキ映画」でしょ。で、リンチはM・ブルックスにそのルックスを「火星から来たJ・スチュアート」と喩えられたけれど、松田龍平扮する人の良すぎる(反面、人をナメてる)主人公は、「松尾スズキが演出したジミー・スチュアート」って感じ。
おまけに阿部サダヲを筆頭とする「大人計画」の面々、片桐はいり、松たか子、二階堂ふみ、そして西田敏行らは唐十郎言うところの“特権的肉体”をいつもより際立たせている! さてこの見立て、いかがだろうか?
松尾スズキ化する龍平の役者としての進化が素晴らしい
お金恐怖症になり、田舎で自給自足生活を送りたいという青年タケの物語だが、全然スローライフな話ではない。お世話焼きの村長をはじめ、需要がないだろうヒモ男と目が光るカメラじじいなど、タケを取り巻く村人が一様に変。しかも「いろいろあるのよ、田舎だから」な事情もかなり変。てか、田舎をバカにしてる? でも、これが松尾スズキ監督の手にかかると洒脱なコメディとなり、疑問を持つ余地もなくどんどん展開していくから楽しい。濃いキャラの間でひょうひょうとした存在感を維持する松田龍平は、スズキちゃんが乗り移ったかのような身体演技も披露し、役者としての進化に感心しきり。彼がいなかったらこの映画は成り立たなかったと思う。
松尾スズキは日本カルチャーシーンの“村の神”である。
まず企画に拍手! いがらしみきお×松尾スズキ――文化的兄弟と呼べる両者のタッグ。結果、異なるテイストで精神は同根という最良の原作REMIXとなった。
東北の寒村における「0円生活」を描きつつ、経済活動の問い直しより共同体の原理に傾くのが肝。リアル/ファンタジーの不思議な世界で、濃いキャラが強いアクションで蠢く。これは大人計画の芝居を理想的な形で映像に焼きつけたものとも言える。
松尾スズキの本領が出たことで、彼のカルチャーシーン全体への影響力のデカさを再認識できる一本となった。『夢売るふたり』も『あまちゃん』も、そもそも松尾DNAが組み込まれている。日本映画も彼の多大な恩恵を受けているのだ。
豪華“客演”を迎えた映画館で観る「大人計画」
松田龍平主演ということで“『麦子さんと』(兄ヴァージョン)”のような導入だが、村社会あるあるを描いた原作と松尾スズキの相性が恐ろしいほどいい。さらに、松尾本人が演じるヤクザが登場してからのドス黒い展開は、うれしいぐらいに「大人計画」の芝居だ。しかも、阿部サダヲの村長のちょいエロ妻を『夢売るふたり』で金に執着していた松たか子、荒川良々のヤクザとただならぬ関係な女子高生の二階堂ふみなどの“客演陣”も、かなりのインパクトを残す。それだけしっかり世界観が出来上がっていることもあり、お金アレルギーの主人公の設定や西田敏行演じる“神様”の存在など、どこか現実離れした展開も違和感なく観られるだろう。