夫婦フーフー日記 (2015):映画短評
夫婦フーフー日記 (2015)ライター2人の平均評価: 4
ファンタジーとユーモアを用いて真理を探るバランス感覚の良さ
病気で死んだはずのヨメが、残されたダンナの前にちょいちょい現れては叱咤激励する。お涙頂戴の湿っぽい感動ドラマになりそうな話を、爽やかな後味を残す人情味豊かなコメディに仕上げたところが好印象だ。
地味で少々頼りないダンナと、明るくて豪快なヨメ。学生時代の出会いから長きに渡る友達関係、そして結婚、出産、闘病と、ごくごく平凡な夫婦のささやかな愛と絆の軌跡が、死者との夫婦漫才的なやり取りの中で小気味良くフラッシュバックされていく。
そう、死とは日常の中に歴然と存在する現実だ。その喪失感とどう向き合えばいいのか。ファンタジーとユーモアを用いて真理を探るバランス感覚の良さが功を奏している。
仕掛けは大ぶりだが、芝居や描写はとっても細やか!
佐々木蔵之介×永作博美の“おもろい夫婦”ぶりが素晴らしく、陽気さを基調にしているだけウェットな要所が余計効いてくる。泣き所がさりげないプロポーズとか、ごく普通の愛の風景なのもいい。
死んだはずのヨメがもろに見えている――という設定は宮藤官九郎脚本のドラマ『11人もいる!』を連想した。人生の試練や喪失を喜劇化する手つきには、「死を生の一部にする」意識が働いていると思う。
監督の前田弘二は『誰とでも寝る女』などの自主短編で、男女関係の実相を鋭く描出する名手として注目された若手だ。初長編『婚前特急』もその延長にあったが、まさかこんな具合にジャンプするとは。本作の彼には昭和の職人の匂いがする。