スガラムルディの魔女 (2013):映画短評
スガラムルディの魔女 (2013)ライター4人の平均評価: 4
いろんな意味で人を食った怪作
カルト映画の宝庫と呼んでも過言ではないスペイン映画界にあって、ひときわ異彩を放ち続ける奇才アレックス・デ・ラ・イグレシアの最新作は、過去の「ハイル・ミュタンテ!」や「気狂いピエロの決闘」に比べると若干のパワーダウンは否めないものの、それでも十分にハチャメチャで人を食った(本当に人を食う連中も出てくるけど)怪作だ。
犯罪アクションからホラー・ファンタジーへと有無を言わさずギアチェンジする先の読めなさ、荒唐無稽な設定やストーリーに男女のセックス・バトルという永遠のテーマを痛烈な皮肉を込めて展開させる鋭さ。こういう映画がアカデミー賞で最多受賞してしまうスペインって凄い国だ。
男vs女。永遠に尽きぬセックス・バトル。
ディートリヒやサッチャーまで出てくる古今東西の“魔女づくしタイトル”が示すように、これはいわば「女性はすべからく魔女である」という確固たる信念に基づいた映画(笑)。キリストの扮装して宝飾店を襲撃する主人公はじめ、男どもはみんな女性に劣等感を抱いてるダメな奴。バスク地方の村で彼らを犠牲に捧げんとし、ヴィレンドルフのヴィーナスそっくりな大地母神を崇めるカニバリズムの魔女たちは「女を苦しめる愚かな文明の終わり」を言祝ぐ男性憎悪の急進的フェミニスト軍団。いわば男性vs女性の飽くなきセックス・バトルが永遠に繰り広げられるこの世界を、とことん馬鹿馬鹿しくジャンル映画的に描いた、流石イグレシアな快作だ。
鬼才大国・スペインにはかなわない
ダリにガウディ、アルモドバルと、スペインは鬼才の宝庫。尊敬の念を込めイカれた人の発想にはかなわん。強盗団にキョーレツな罰を与えるかのような魔女たちの襲撃という怒涛の展開に、笑うしかない。その疾走感!その独創性! 日本じゃ『どつかれてアンダルシア(仮)』の人という程度の認識だが、スペイン映画芸術科学アカデミーの代表を務めたこともある巨匠。崔洋一監督って感じ? そのトップからしてぶっ飛びブラックコメディを発表し、おまけに出演女優と再婚って有り余る精力からしてそりゃかないませんな。
もっとも御本人は「俺はバスク人」とおっしゃるでしょうが。でもアルモドバル作同様、女強しなのはスペイン気質なのかも。
過小評価されている異才に、今こそ正当な評価を!
キリストの格好をした子連れ強盗犯に、同じく扮装中の仲間たち、ヘタレなタクシー運転手、そして恐ろしい魔女たち。これだけクセ者がそろうと映画が面白くならないワケがない。
彼らがぶつかり会うことで起こる化学反応はもちろん冒頭の強盗犯一味と警察のチェイスも、後半の毒牙をあらわにする魔女たちの暴れっぷりもスリリング。まさしく予測不可能なエンタテインメントを成立させている。
そのスジにファンの多いアレックス・デ・ラ・イグレシア監督もすでにキャリア20年。同時公開となる、これまた予測できない風刺劇『刺さった男』との合わせ技で、ギリアムやティム・バートンに匹敵する才能を、今こそキッチリ評価すべきだ!