おみおくりの作法 (2013):映画短評
おみおくりの作法 (2013)ライター3人の平均評価: 3.7
名プロデューサー、演出もなかなか。
淡々と、しかもミニマルに綴られる民生士の日常。多くの人がチェーホフ「外套」のアカーキイを想起するだろうが、矩形あるいは真正面のアングルにこだわる構図も含め小津安二郎の影響が濃厚。主人公がこだわる葬儀のかたちは明らかに不合理で、むしろ「葬儀は生者のためのものだ」とする(戯画的なまでに悪役の)上司の言い分こそ一理あるが、孤独死した者にシンパシーを抱くどころかそれ以上に孤独な民生士の生活が、彼の行為に充分理由を与えている(物乞いにまで落ちぶれた男よりも女縁がない自分を知って酒をグビるE.マーサンの哀しさおかしさ!)。しかし惜しいのはラスト。ここで泣く人も多いのだろうが蛇足としか思えない。
厳粛で、柔らかな作法
西洋版『おくりびと』!? というのもある程度間違っていないのだが、もっと抑制されたマナー&トーン。死の側から生を見つめる物語として、極めて良質の一本だ。
語り口は平易なのだが、色彩設計の細やかさが尋常ではなく、詩情がカラダに染みる感じ。U・パゾリーニ監督は「視覚的に小津安二郎の晩年の作品を参考にした」と語っているが(確かに何度も『秋刀魚の味』を思い出した)、孤独な中年男のストーンフェイスを基軸にゆっくり転がしていくオフビートな喜劇調は、むしろ小津チルドレンの最優秀者の一人、アキ・カウリスマキに近いと思う。
ラストシーンは、ハマればでかい。孤独死や無縁社会という乾いた言葉を潤す力がある。
孤独死によりそう男性の温かさが心にしみた
最近増えている「孤独死」を扱った作品で、他人に迷惑をかけずに生をまっとうする手段など考え始めたおひとり様な私にとって、主人公ジョンの温かさが実に心にしみた。近親者探し、葬儀の手配や参列が仕事ではあっても彼の態度からは死者への尊厳が伝わってくる。実際に孤独死したら、こういう人にアフターケアをしてもらいたいと切に願うよ。ジョンが死者に優しく寄り添うのは彼自身が孤独の寂しさを身をもって知っているからで、死者の写真を丁寧にアルバムに貼るシーンとエンディングなど鼻の奥がツンとしっぱなし。ジョン役のエディ・マーサンの感情を表に出さないストイックな演技が効いている。幸薄そうな顔立ちもプラスでしたね。