ターナー、光に愛を求めて (2014):映画短評
ターナー、光に愛を求めて (2014)ライター3人の平均評価: 3.7
このターナーはマイク・リー監督に似ている
マイク・リー監督は、彼がいつも現代英国の日常のひとこまを切り取るのと同じ手法で、この19世紀の英国を代表する画家の晩年を描く。なので、この映画のターナーは偉人ではなく、ひとりの頑固な英国人で、監督自身によく似ている。自分の道を自分のペースで歩み続けて、誰にも媚びず、時代の流行の画の前に立っても、無言で"なんだかなあ"という顔をするのみ。周囲のどんな声にも反論しないが、決して自分の信念を曲げない。そして、これも監督同様、ただ自分の見たものを、自分が見たように描き続けるのだ。このターナーの目に映る世界を、監督と組んできた名カメラマン、ディック・ポープが、ターナーの名画そのままに映像化している。
絵画からは想像できない下品な人格に戸惑う
テート・ブリテンやナショナル・ギャラリーに足を運ぶたびにターナーの作品に感銘を受けてきたが、画家の人間性など少しも考えたことはなかった。それが……。マイク・リー監督の容赦ない人物描写には驚かされる。父親との共依存的関係や歪な女性関係、才能に溺れたかのようなパフォーマンス、絵画の美しさとは真逆な下品な人格がスクリーンに焼き付けられる。こうなると、嵐を体感するために船のマストに体を縛り付けた逸話も奇行に思えるから不思議。演じるティモシー・スポールの外見や所作も影響大なのだが、偉大な画家が奇人に見えてしまうのに戸惑った。あ、でもターナーが好んだ黄色や光を多用した絵画的映像は素晴らしいです。
監督・主演に加え、ディック・ポープ(撮影)が本気を出した!
前作『家族の庭』まで、マイク・リー監督には英国庶民の日常をリアルに劇化する名手というイメージばかり主だったので、今作の“映像的”達成に心底驚嘆。生々しい人間臭さと高度な審美性が見事に融合。この成果はリーと長年組みつつ、一方『幻影師アイゼンハイム』等で美的追求していた撮影のD・ポープがアクセルを全開にした事が大きいだろう。
むろん労働者階級出身で、謎多き私生活では怪人だったと噂されるターナーの人物像もキモ。これまたリー作品常連、T・スポールの聖と俗を往来する芝居が凄い。史実に想像の余地があったからこそ、即興性を駆使するリーの演出法も活きた。まさに一流表現者たちの仕事が有機的に切り結んだ好例だ。